医政医発1219第 1 号
平 成 30 年 12 月 19 日
各都道府県衛生主管部(局)長 殿
厚生労働省医政局医事課長
( 公 印 省 略 )
Table of Contents
人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第 17 条の規定との関係について
近年、機械学習の技術の進歩等により、診療を行うに当たって人工知能(AI)を用いた診断・治療支援を行うプログラムが用いられる機会が増加しており、今後、その果たす役割はますます大きくなるものと予想されている。
このような中、平成 29 年度厚生労働行政推進調査事業費補助金により、「AI等の ICT を用いた診療支援に関する研究」(研究代表者:横山和明東京大学医科学研究所附属病院血液腫瘍内科助教)が行われ、本研究の報告書が取りまとめられたところである(概要は別添参照)。
当該報告書では、人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムを利用して診療を行うことについて、本研究において行った AI 等の ICT を用いた診療支援に関する調査等を踏まえ、「AI は診療プロセスの中で医師主体判断のサブステップにおいて、その効率を上げて情報を提示する支援ツールに過ぎない」、「判断の主体は少なくとも当面は医師である」等と整理している。
上記のとおり、人工知能(AI)を用いた診断・治療支援を行うプログラムを利用して診療を行う場合についても、診断、治療等を行う主体は医師であり、医師はその最終的な判断の責任を負うこととなり、当該診療は医師法(昭和 23 年法律第 201 号)第 17 条の医業として行われるものであるので、十分ご留意をいただきたい。
貴職におかれては、内容を御了知いただくとともに、貴管下保健所設置市、特別区、関係機関及び関係団体等に周知をお願いする。
(別添)
厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)AI 等の ICT を用いた診療支援に関する研究(H29-医療—指定−015)
研究代表者
- 横山 和明 東京大学・医科学研究所附属病院 血液腫瘍内科 助教
研究分担者
- 井元 清哉 東京大学・医科学研究所 健康医療データサイエンス分野 教授
- 古川 洋一 東京大学・医科学研究所 臨床ゲノム腫瘍学分野 教授
- 湯地 晃一郎 東京大学・医科学研究所 国際先端医療社会連携研究部門 特任准教授
研究要旨
人工知能(AI)の利活用は医療分野に大きな影響を及ぼすと予想される。医師による診療プロセスの一部に AI が介在することは、医療の質の向上に貢献し得る一方で、新たな社会的・法的問題を生じる潜在性がある。また、診療のどのプロセスに AI が介在しているかは必ずしも明らかではない。さらに国内における AI等の ICT を用いた診療支援等の研究状況も明らかでなく、これらの点について政策立案のための論点整理を行うことが必要である。本研究では、国内での AIを用いた診療支援研究について、有識者へのヒアリングを交えながら、診療のプロセスという観点からそれらの類型化を試み、以下の結果を得た。
- AI は診療プロセスの中で医師主体判断のサブステップにおいて、その効率を上げて情報を提示する支援ツールに過ぎない。
- AI には知識量の制約がなく、医師主体判断のサブステップにおいて、医師にデバイアスによる気づきを与え得る。AI と医師との協働は医療の質向上に有用であると考えられる。
- AI の推測結果には誤りがあり得るが、判断の主体である医師が AI を用いた診療の責任を負うべきである。その前提として医師に対して AI についての適切な教育を行うべきである。
- 本邦における AI による診療支援研究はまだ萌芽期段階である事、判断の主体は少なくとも当面は医師である事実を鑑みると、その規制の議論は時期尚早である。寧ろ保険医療分野における AI 開発に関わる医師および研究開発者などの人材育成と公的な支援体制の整備の方が優先されるべきである。