平成26年11月7日
新制度の薬学部及び大学院における研究・教育等の状況に関する
フォローアップワーキング・グループ
Table of Contents
1 今までの経緯
「薬学系人材養成の在り方に関する検討会」(以下、「検討会」という。)及び「新制度の薬学部及び大学院における研究・教育等の状況に関するフォローアップワーキング・グループ」(以下、「本WG」という。)では、質の高い卒業生を輩出する要因のひとつは一定以上の学力を有する入学者の確保であるとの考えの下、薬科大学・薬学部に対してフォローアップを行ってきた。
本WGでは、平成24年度に、23の学部に対し書面調査を行うとともに、その中から9学部に対してヒアリング調査を行った。その結果については、書面調査及びヒアリング調査対象大学だけでなく、多くの大学に共通する事項であると考えられることから、「平成24年度質の高い入学者の確保に向けてのフォローアップ状況(まとめ)」(以下、「H24状況まとめ」という。)を作成し、同年11月8日の第12回検討会に報告した。
また、ヒアリング調査対象の9学部に対しては、個別に「今後改善すべき事項」を提示し、これに対し平成25年5月末までに改善計画が提出された。
本WGでは、上記の改善計画と「平成22~26年度の入学試験・6年制学科生の修学状況・国家試験合格状況」を参考にしつつ、薬学教育の現状や取り巻く状況を基に、多くの大学に共通した課題・問題点について整理するという観点から検討を行った。
2 各大学における取組の必要性
高齢化社会の進展に伴い医療者の役割が高度化、多様化してきており、このような社会的ニーズの変化に対応するために、医療専門職はこれまで以上に課題解決能力が求められ、それを達成できる能力の修得が期待される。薬学部に対しては、医療人として社会で活躍する薬剤師の養成など優れた人材の養成に大きな期待が寄せられており、各学部においては、教育の質の向上に向けた取組が行われている。このような状況の中で、大学の人材養成の質の低下は薬学教育全体の評価の低下や、さらには医療の質の低下につながる恐れがある。各大学においては、早急な取組が必要であるが、その際、教学組織に加え、設置者側(経営組織)の役割も重要であることを認識すべきである。
3 フォローアップの内容
①提出された改善計画
改善計画では、全体としてそれぞれの大学が改善に向かって努力していることは認められた。しかしながら、計画について具体性に欠けるものや抽象的表現も目立ち、実効性ある実施やPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルが行われるか懸念も感じられた。このほか、入学者選抜において学力の確認が十分かどうか不明であるものや、改善計画を実施する上で学部の教員体制や意識の違いに懸念があるもの、全体的な学力向上策や学生の能動的な学修の増加に向けた取組が明確ではないものがあるなどの問題が見受けられた。情報の公表については、H24状況まとめにおいて、学生の状況についてホームページ等で公表することを求めているが、現状ではホームページでの公表が進んでいない。
②入学試験・6年制学科生の修学状況等
「平成22~26年度の入学試験・6年制学科生の修学状況」を基に、実質競争倍率(受験者数/合格者数)と卒業率、国家試験合格率の関係を確認した。
一般的に、実質競争倍率の高い大学は、卒業率、国家試験合格率ともに高い傾向にあり、卒業率、国家試験合格率が低い大学は、実質競争倍率が低い傾向にある。また、実質競争倍率が低い大学の中には、卒業率が高い大学や国家試験合格率が高い大学があるが、卒業率が高い大学は国家試験合格率が低く、国家試験合格率が高い大学は卒業率が低い傾向にある。
なお、卒業率や国家試験合格率はあくまで指標のひとつであり、教育の質を確認できる指標について、今後検討していくことが重要である。
4 フォローアップの結果
本ワーキング・グループとして以下の所感を得た。今後、これらの事項について引き続き各大学の状況やデータ等を整理しフォローアップを行う必要がある。
①入学者選抜の見直し、入学定員の検証
各大学において、AO入試など多様な入学者選抜が行われていることは評価できるが、意欲・適性の評価を重視するあまり学力の確認が軽視されているとの指摘がある。大学教育を受けるために必要な学力の把握が必要である。また、一般入試における学力検査の教科・科目の設定についても、適切に行う必要がある。
また、18歳人口が減少する中、入学者の質を下げてでも経営の観点から定員分の学生数を確保しようとする現状があるという指摘もある。このような現状は公教育を行う機関である大学の信頼を損なうものであり、改めなければならない。
冒頭でも述べたとおり、質の高い卒業生を輩出するためには、一定以上の学力を有する入学者を受け入れることが重要である。各大学においては、下記②から⑤の取組と並行して、例えば、上記3②のフォローアップ内容も勘案しながら、入試による選抜が機能するよう、適正な入学定員の設定について必要に応じて検討することも重要である。
②教育方法、評価、教員体制強化
H24状況まとめの提言を各大学で改めて確認の上、取り組む必要がある。
特に、生涯にわたって社会に貢献する薬剤師を育てるために、学生の能動的な学修を促すことが重要である。また、問題解決能力や学んだ知識・技能・態度を総合的に体系化し発揮する能力を養成できるような卒業研究等の充実も重要である。
質の高い卒業生を輩出するために、適切で教育上効果的な成績評価を行ったうえで、進級基準や卒業基準を適切に定め厳格な評価を行うとともに、これらをフィードバックして学生の学力向上に結びつけることが望まれる。また、学生や保護者に対し、薬学生として要求される学修の水準や卒業要件の水準について周知することや、途中年次で進路変更を希望する学生をサポートする体制を整えることも重要である。
更に、教員体制の強化も必要である。学生の学力水準等に応じたきめ細かい対応が求められるが、これらを可能とする教育体制を保証するため、ファカルティ・ディベロップメントの改善充実などにより、各教員の6年制薬学教育への意識の転換を図っていくことが重要である。具体的には、例えば、6年制薬学教育の目的を再確認することや、質の高い卒業生を輩出するためのディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーについて、相互の整合性をとった形で明確化し教員間で共有すること等が必要である。
③内部質保証システム
教育の質向上の様々な試みごとに、データやその分析に基づいた改善計画を策定し、PDCAサイクルを機能させ実効性を高めていくことが重要である。
まずは、学生の学力、意欲、学習への態度、入学時の成績とその後の修学状況等について現状や課題を分析し、その分析結果に基づいた、課題を解決しうる改善計画を企画、実施する必要がある。その上で、改善の効果について検証しその結果を踏まえ改善計画を見直していく必要がある。
また、各大学において授業評価や卒業生のアウトカムなどのデータを収集できる仕組み・体制を構築することが重要である。
なお、教育の内容・質を高めることを目的とすべきであって、進級率や合格率等の数値を良くすること自体が目的とならないよう留意する必要がある。
④卒業生の評価
各大学においては、卒業生の質を確認し、この結果を各大学で教育に反映させることが重要である。併せて、それぞれの大学が「、 6年制卒の薬剤師はどのようなことができるのか」ということを実態に基づき明らかにするとともに、薬学部の社会的な評価を高めていくために、教育への取組や成果、卒業生の活躍の状況を広く社会にアピールすることが期待される。
⑤薬学教育評価について
6年制薬学教育については、第三者評価として薬学教育評価が行われている。評価の結果を各大学が相互に参考にして、それぞれの大学で教育の改善に努めるとともに、評価の結果が薬学教育の質を説明する情報のひとつとして社会で活用されるよう、各大学は、社会に対し評価結果や評価結果を踏まえた大学としての対応策等の情報を積極的に周知することが重要である。
5 情報の公表
学生の状況の公表については、受験生がその状況を理解した上で入学することができるようにするなど、社会一般の理解が得られる適切な方法により行う必要がある。
(公表する内容)
各年次の進級者数、入学者に対する標準修業年限内の卒業者及び国家試験合格者の割合、6年次の卒業留年の割合 |
文部科学省においては、上記に関する各大学の公表状況について整理し、ホームページ
で公表する必要がある。
6 おわりに
各大学においては、国家試験を目指して無事卒業させることに汲々として理念と乖離した教育を行うのではなく、「どのような薬剤師、薬学卒業生を育成しようとしているのか」について一貫したポリシーを持ち、将来的に社会のニーズがどのように変遷していくのか見極めながら全体的戦略を考えていくことが必要であると考えられる。
また、6年制薬学教育においては、改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラムの理念や内容に対応していくことが肝要であり、併せて、本「フォローアップ状況」で述べている内容を踏まえて、教育の質の向上に取り組むことが重要である。
大学教育の改善充実については、まずは各大学が自主的、自律的に取り組む必要があり、各大学が改善に向けて積極的に取り組むことを強く期待する。併せて、各大学の取組が行われるよう関係団体の役割にも期待したい。
参照
文部科学省トップ > 教育 > 大学・大学院、専門教育 > 大学における医療人の養成(医学・歯学・薬学・看護学等) > 薬学教育 > 薬学部における修学状況等