ビジネス全般

当面の規制改革の実施事項(令和3年12月22日)Ⅰ 総論

令和3年12 月22 日
規制改革推進会議

Ⅰ 総論

1.基本的な方向性

政府は、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトにした新しい資本主義の実現に向けたビジョンを示し、その具体化を進めるための検討を行っている。こうした中で、規制改革推進会議の役割は、国民の声や産業界から具体的に要望のある個別課題にスピーディかつきめ細かく対応し、個別具体的な規制・制度を見直していくことで、成長と分配の好循環の起爆剤となる成長を実現していくことである。

成長が好循環の起爆剤となるためには生産性向上が不可欠である。生産性向上の制約要因となる規制・制度について、イノベーションの進展も含めて、その時々の経済社会の状況に応じて不断の見直しを行うことが必要である。特に、デジタル時代の経済社会の変化は予想が困難で劇的かつ急激なため、そうした目まぐるしく大きな変化を素早く察知し、適切かつ柔軟に対応することが必要であり、特定の技術・手段などを求める画一的で事前型の規制・制度から、技術中立的でリスクベース・ゴールベースの柔軟な事後型の規制・制度への見直しを進めていかなければならない。そのような規制体系の見直しを通じて、新しい技術の登場やその活用、イノベーションの社会実装を促進し、付加価値の高い新製品・新サービスの創出と市場への浸透による、新たな成長産業を創出していくべきである。

また、旧態依然とした規制・制度を見直し、物理的な制約や非効率的な手順・作業から人々を開放するとともに、事業活動の生産性向上や消費者の利便性を向上させることにより、「人」が生み出すことのできる付加価値や活躍の機会を増やしていくべきである。同時に、社会のデジタル化や知識経済化が急速に進展する中で、「無形資産」の重要性もますます高まってきており、研究開発などのイノベーション活動に必要不可欠な人的資本への投資を積極的に行っていかなければ、我が国の国際競争力を高めることはできない。

これらの目的を果たすためには、単に規制・制度を形式的に見直すだけではなく、改革の成果が国民に浸透する段階まで見据えて取り組んでいかなければならない。現場の声を拾い上げるとともに、現場まで改革の成果を届ける双方向の「コミュニケーション」により、国の規制・制度の見直しだけでなく、自治体の現場での運用、民間のルール・慣習などを含め、改革を実行していく。

これまで、本会議では、イノベーションの社会実装に向けたフィンテックやモビリティの分野に関する規制や慣行の見直し、農業者や漁業者が出荷先を自由に選べるようにするための制度や慣行の見直し、産業医の常駐・兼務規制の見直し一般医薬品の販売規制の見直しなどに取り組んできた。また、デジタルに関しては、行政手続等に関して、押印を義務付ける手続、書面の作成・提出等を求める手続、対面や出頭を求める手続などの見直しを進め、行政手続において約99%の押印義務の廃止、オンライン化されていない行政手続の約98%を令和7年までのオンライン化方針、オンライン診療や服薬指導の特例措置の恒久化、オンライン教育に関する規制・制度の見直しなどを実現してきた。このように本会議では、現場のニーズに即した個別具体的な改革に取り組むとともに、それらの改革事項のフォローアップを丁寧に行い、規制所管省庁による確実な実行・実施を求めてきた。

今後、我が国の生産性向上、成長産業・分野を考えたときに、①スタートアップ・イノベーション、②「人」への投資、③医療・介護・感染症対策、④地域産業活性化(農林水産、観光等)の4つの重点分野とその基盤としてのデジタル・トランスフォーメーション(DX)が鍵となる。

第一に、スタートアップ・イノベーションは新たな需要・消費を創出するとともに大きな雇用を生み出し、いつの時代においても経済成長の原動力である。古い規制・制度が新産業の創出や新技術の活用、新しいビジネスモデルやサービスの展開を阻害することがあってはならず、イノベーションに対応した規制・制度体系への移行が求められる。特に今日においては、自動運転、新型モビリティ、FinTech(フィンテック)、プラットフォーム型ビジネスなど、新しいテクノロジーを活用したビジネスやサービスが次々と登場してきている。規制・制度が本来目指していた目的とビジネス機会の両立を図りながら、今後の成長が最も期待されるスタートアップやイノベーションを強力に後押しする規制・制度改革を進めていくことが、我が国経済の持続的成長や雇用の創出にとって極めて重要である。

第二に、「人」への投資である。今般の感染症拡大下においてオンライン教育やリモートワークを含めた働き方の課題が浮き彫りになったところであり、一層強力に規制・制度改革を進めていかなければならない分野である。また、現在世界では、人的資本を重視し、新たな成長につなげていく「新しい資本主義」を模索する動きが進んでいる。我が国においても、少子高齢化に伴い労働力人口が減少する中で、就業機会を増やしながら、誰もが活躍できる社会を実現し、安心して子育てを行うことのできる環境整備も含め柔軟で多様な働き方を実現するとともに、大学等の教育現場における創意工夫を阻害する規制・制度を大胆に見直していくことにより、イノベーションの源泉である質の高い教育を確保していくことが不可欠である。また、後述する常駐・専任規制の見直しは、リモート・オンラインや兼務といった働き方を可能にするものであり、「人」ができることを増やす観点からも取り組む必要がある。

第三に、今般の新型コロナウイルス感染症への対応の中で課題が再認識された医療・介護分野は、規制改革の中でも最重要分野の一つである。特に、感染症拡大下において「場所」の制約を取り払う上で大きな意義があるオンライン診療・服薬指導だけでなく、それ以外にも医師・病院等の業務、医薬品・医療機器の開発・供給、介護サービス事業の在り方などに関する様々な課題が残されている。また、医療・介護分野は、現状、労働生産性も低く、生産性向上を図るためにも規制・制度改革を強力に進めていかなければならない。さらに、医療・介護分野は、患者本位・利用者本位のサービスを実現することにより、ニーズに即した製品・サービス市場の拡大につながり、我が国の成長産業としても期待される分野である。また、市場規模が大きく多くの雇用を生み出すだけではなく、ビッグデータやAI、ロボットなどの新技術の活用が見込まれる分野であり、日本発のイノベーションにより国際競争力を強化することができるとともに、健康寿命の延伸や医療費の削減なども期待できる。

第四に、地域産業活性化である。特に、農林水産の分野における規制改革は長年にわたって取り組まれてきたが、依然として多くの課題が残されており、農林水産の所得向上や成長産業化も含め、地域を支える観光等とともに、今後も精力的に規制・制度改革を進めていかなければならない分野である。また、中小企業の労働生産性、特にサービス産業の労働生産性は低く、プロセス・イノベーションなどを通じて、生産性向上に取り組まなければならない分野である。

これら4つの重点分野において、人の付加価値向上や生産性の向上を推進していく上で、デジタル・トランスフォーメーション(DX)は、その重要な共通基盤となるものであり、分野横断的に推進していくことが不可欠と考えられる。新型コロナウイルス感染症の拡大により、我が国の経済社会は大きなダメージを受けた一方で、本会議が取り組んできた押印・書面・対面に関する規制・制度の見直しの進展とともに、国民・産業界の意識が劇的に変化し、遅々として進まなかったデジタル化が急速に進むなど、社会の変化の兆しが表れている。これを契機に、デジタル基盤の整備が立ち遅れる地方も含め、デジタルをデフォルトにし、デジタル田園都市国家の実現を目指す。そして、誰一人取り残されないよう、我が国の基盤となるDXを一気呵成に推し進めるために、デジタル改革・規制改革・行政改革を一体的に推進していく必要がある。本会議としても、デジタル臨時行政調査会と連携して、押印・書面・対面・常駐規制の見直しに取り組み、行政手続のオンライン化・利用率の引上げ、ベース・レジストリの整備・連携やキャッシュレス化の推進、司法、金融、建設等の個別分野のデジタル化、5Gの普及・拡大に取り組み、デジタル基盤の整備を推進する。

2.本取りまとめについて

以上の考え方の下、令和3年8月から12 月の間、本会議として、これまでの規制改革事項のフォローアップを行うととともに、その後の社会情勢の変化も踏まえて新たな改革課題に取り組んできたが、今般、その中間的な成果として、全ての分野の共通基盤となるデジタル改革と共に、先述した4つの重点分野、すなわち、①スタートアップ・イノベーション、②「人」への投資、③医療・介護・感染症対策、④地域産業活性化に基づき、当面実施すべき規制改革事項を以下のとおり取りまとめた。今後、政府において、本取りまとめを踏まえ、直ちに、具体化に着手し、改革の更なる加速・拡大を図ることが望まれる。

まずはじめに、全ての分野の基盤となる「デジタル」に係る改革として、これまでも分野横断的かつ強力に取組を進めてきた押印・対面・書面規制の見直しを引き続き徹底的に進めていく。同時に、それらの規制の見直し後のフェーズ、すなわち行政手続のオンライン利用率についても大胆に引き上げていく。また、行政手続におけるキャッシュレス化や訴訟手続のデジタル化など、社会におけるあらゆる手続をデジタル完結させるための改革を加速させていく。さらに、民間分野においても、書面・対面規制の見直しによる取引・契約等のデジタル化や、新技術活用による常駐・専任規制の見直しなど、企業のDXを支える規制改革を実施するとともに、ローカル5Gの普及拡大といった基盤整備を進めていく。

スタートアップ・イノベーションについては、コンテンツの円滑な流通に向けた制度整備やMaaSの実現に向けた交通関連データの活用、物流・交通分野における新技術の活用など、新産業・新事業の創出や新しいビジネスモデルの展開を後押しするための規制・制度改革を進めていく。

「人」への投資については、オンライン教育や大学設置基準の見直し等の個に応じた学びを推進することによりイノベーションを支える人材を育成するとともに、多様な働き方を実現するため、雇用仲介制度や労働時間制度の見直しなどデジタル時代にふさわしい就業環境の整備を進める。さらに、保育の質の向上、育児休業の取得促進、養育費確保に向けた取組など、子育て・女性活躍に資する規制・制度改革も同時に推進していく。

医療・介護・感染症対策については、抗原定性検査キットの販売方法の見直しなどコロナ禍における喫緊の課題に対応するとともに、ウィズコロナ下での社会経済活動の再開との両立のための対応を引き続き講じていく。また、医療DXプログラム医療機器の開発・導入の促進を含め、患者本位・利用者本位のサービスの実現を図るとともに、そうした取組を通じて医療の成長産業化を同時に進めていく。

地域産業活性化については、農林水産の成長産業化を図り、農林水産者の所得向上につなげていく。また、個人事業主の事業承継手続の簡素化などを通じ、地方経済を担う中小企業の活性化・生産性の向上を推進する。

3.具体的な進め方

11 月16 日、第1回「デジタル臨時行政調査会」が開催され、全ての改革(デジタル改革、規制改革、行政改革)に通底する「デジタル原則」を策定することとされたところである。

このため、デジタル分野については、原則としてデジタル臨時行政調査会が策定するデジタル原則に基づいて取り組む「横断的な課題の検討・実行」というトップダウンの取組と、これまでも規制改革・行政改革ホットラインなどの仕組みを通じて取り組んできた、国民の声や要望に基づき集中的に議論する「個別具体的な規制・制度の見直し」というボトムアップを車の両輪として進めていくことが望ましい。

その際、横断的な見直しの過程で固有の事情等が明らかになった個別課題を、規制改革推進会議の各ワーキング・グループにおける専門的な調査審議の場にタスクアウトする。また、これまで規制改革推進会議が先行して取り組んできた横断的な取組を加速するとともに、個別規制の見直しの過程で明らかになった横断的課題をデジタル臨時行政調査会にフィードバックし、一括見直しにつなげていく。このように両会議間でタスクアウトとフィードバックを柔軟に行いながら連動していくことが改革を進める上で重要である。

また、11 月11 日には、地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けて、「デジタル田園都市国家構想実現会議」が開催され、「地方を支えるデジタル基盤の整備」が検討されることとなった。本会議としても、デジタル臨時行政調査会と連携して、当該基盤整備に向けた規制・制度改革に取り組んでいく。

なお、グリーンの分野については、2050 年カーボンニュートラルや2030 年度の温室効果ガス削減目標の実現に向けた再生可能エネルギーの適切な導入拡大のために、規制改革推進会議とは別の枠組みである「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」において、規制改革に関する議論が行われることとされている。同タスクフォースは、今後、洋上風力発電の推進や地域との共生などの従前の検討課題のフォローアップのみならず、EV時代におけるリチウムイオン蓄電池に係る「消防法」の見直しやデジタル改革・行政改革の視点を踏まえた「電気保安規制」の見直しなど、新しいテーマについても取り上げる予定であり、本会議としても同タスクフォースの取組を注視していく。

本会議は、引き続き、規制改革に関する取組の加速・拡大を行うため、規制所管省庁と引き続き議論を行い、来年6月を目途に答申を取りまとめることとする。

参照

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