医薬品医療機器等

エクロックゲル5% [ソフピロニウム臭化物](審議結果報告書2020年9月3日)

審議結果報告書

令和2 年 9 月 3 日
医薬・生活衛生局医薬品審査管理課

[販売名]

エクロックゲル5%

[一般名]

ソフピロニウム臭化物

[申請者名]

科研製薬株式会社

[申請年月日]

令和元年 11 月 22 日

[審議結果]

令和2年8月 27 日に開催された医薬品第一部会において、本品目を承認して差し支えないとされ、薬事・食品衛生審議会薬事分科会に報告することとされた。

本品目は生物由来製品及び特定生物由来製品のいずれにも該当せず、再審査期間は8年、原体は劇薬に該当し、製剤は毒薬及び劇薬のいずれにも該当しないとされた。

[承認条件]

医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。

審査報告書

令和 2 年 8 月 6 日
独立行政法人医薬品医療機器総合機構

承認申請のあった下記の医薬品にかかる医薬品医療機器総合機構での審査結果は、以下のとおりである。

[販売名]

エクロックゲル 5%

[一般名]

ソフピロニウム臭化物

[申請者]

科研製薬株式会社

[申請年月日]

令和元年 11 月 22 日

[剤形・含量]

1 g 中にソフピロニウム臭化物 50 mg を含有するゲル剤

[申請区分]

医療用医薬品(1)新有効成分含有医薬品

[審査担当部]

新薬審査第一部

[審査結果]

別紙のとおり、提出された資料から、本品目の原発性腋窩多汗症に対する有効性は示され、認められたベネフィットを踏まえると安全性は許容可能と判断する。

以上、医薬品医療機器総合機構における審査の結果、本品目については、下記の承認条件を付した上で、以下の効能又は効果並びに用法及び用量で承認して差し支えないと判断した。

[効能又は効果]

原発性腋窩多汗症

[用法及び用量]

1 日 1 回、適量を腋窩に塗布する。

[承認条件]

医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。

別紙 審査報告(1)

起原又は発見の経緯及び外国における使用状況に関する資料等

原発性局所多汗症は、日常生活に支障を来す程の大量の発汗が生じる疾患であり、腋窩に生じる場合を原発性腋窩多汗症という(原発性局所多汗症診療ガイドライン、日皮会誌 2015; 125: 1379-1400)。ソフピロニウム臭化物(本薬)は、Bodor Laboratories 社が創製したグリコピロニウムアナログであり、ムスカリン性アセチルコリン受容体に親和性を示し、抗コリン作用を有する。コリン作動性神経により調節されているエクリン汗腺のシナプス後膜に分布するムスカリン性アセチルコリン受容体とアセチルコリンとの結合を本薬が競合阻害することで、多汗症による発汗を抑制することが期待され、本薬の開発に至った。

今般、申請者は、原発性腋窩多汗症患者を対象とした国内臨床試験において、本薬の有効性及び安全性が確認できたとして、医薬品製造販売承認申請を行った。

なお、本薬は 2020 年 6 月現在、海外において承認されている国又は地域はない。

機構における審査の概略

有効性について

機構は、7.R.1.1~7.R.1.3 の検討結果から、原発性腋窩多汗症に対する本薬の有効性は示されたと考える。

7.R.1.1 プラセボと比較した有効性について

申請者は、有効性評価項目の設定経緯と、プラセボと比較した本薬の有効性について、以下のように説明している。

本薬の開発では、有効性を評価する指標として HDSS と発汗重量の 2 つを用いた。HDSS は原発性局所多汗症の重症度を自覚症状により 4 段階に分類する指標(表 26)であり、HDSS の 3 及び 4(発汗が我慢できない状態)から、HDSS の 1 又は 2(発汗が我慢できる状態)となることは臨床的に意義がある(Dermatol Surg 2007; 33: 908-23)。発汗重量は客観的かつ定量的な指標であり、50%以上の減少を有効とすることで減少効果が明確になる(西日皮 2013; 75: 357-64、J Am Acad Dermatol 2019; 80: 128-38 等)。

用量設定試験において、主要評価項目として設定した「治療終了時(投与 6 週)の両腋窩合計発汗重量のベースラインとの比が 0.5 以下の患者割合」では、いずれの本薬群もプラセボ群に対して統計学的な有意差は認められなかったが、追加解析として、「治療終了時に HDSS が 1 又は 2 であり、治験終了時の両腋窩発汗重量のベースラインとの比が 0.5 以下になった患者割合」を検討した。その結果、プラセボ群 42.3%(22/52 例)、本薬 5%群 63.5%(33/52 例)であり(表 44)、5%群でプラセボ群に対し高い傾向が認められた。また、発汗重量(平均値)は投与 2 週以降同程度で推移したものの(本薬 5%群の投与 2 週で 76.0 mg、4 週で 67.4 mg、6 週で 77.9 mg)、HDSS は投与 6 週後まで低下する傾向が認められた(HDSS が 1 又は 2 の被験者割合は本薬 5%群の投与 2 週で 42.3%、投与 4 週で 65.4%、投与 6 週で82.4%)。以上を踏まえ、第 III 相試験の主要評価項目は、「治療終了時(投与 6 週)に HDSS が 1 又は2 であり、治験終了時の両腋窩発汗重量のベースラインとの比が 0.5 以下になった患者割合」と設定することが妥当と考えた。

第 III 相試験における主要評価項目の結果は表 31 のとおりであり、本薬群はプラセボ群と比較して統計学的な有意差が認められた(p=0.003、カイ二乗検定、有意水準両側 5%)。また、主な副次評価項目である「治療終了時の HDSS が 1 又は 2 の患者割合」、「治療終了時の両腋窩合計発汗重量のベースラインとの比が 0.5 以下の患者割合」、「治療終了時の両腋窩合計発汗重量のベースラインからの変化量」(表 31)のいずれについても、プラセボ群より本薬群で改善する傾向が認められた。主要評価項目に対する感度分析として、動的割付因子とした「性別」、「ベースラインの両腋窩の合計発汗重量」及び「ベースラインの HDSS」を共変量としたロジスティック回帰分析の成績を確認したところ、調整後のプラセボ群に対する本薬群のオッズ比[95%信頼区間]は、2.13[1.31, 3.46]であり、主たる解析(表 31)と同様の傾向が認められた。

機構は、第 III 相試験の主要評価項目を「治験終了時(投与 6 週後)に HDSS が 1 又は 2 であり、治験終了時(投与 6 週後)の両腋窩発汗重量のベースラインとの比が 0.5 以下になった患者割合」と設定したことは妥当であると考える。また、主要評価項目において、本薬群とプラセボ群に統計学的有意差が認められ(表 31)、主な副次評価項目の結果についても、主要評価項目の結果と同様の傾向が認められたことを確認した。

以上より、本薬の原発性腋窩多汗症患者に対する有効性は示されたと考える。

7.R.1.2 患者背景別の有効性について

第 III 相試験における主な患者背景別の主要評価項目の結果は表 38 のとおりであった。

機構は、症例数が少ない集団では評価に留意が必要であるものの、いずれの集団においても本薬群はプラセボ群と比べ、主要評価項目を達成した患者割合が高い傾向であることを確認した。

7.R.1.3 長期投与時の有効性について

機構は、本薬の長期投与時の有効性について、以下のとおり確認した。

長期投与試験における「治療終了時(投与 52 週)の HDSS が 1 又は 2 であり、治療終了時(投与 52週)の両腋窩合計発汗重量のベースライン18)との比が 0.5 以下の患者の割合」は表 35 のとおりであり、第 III 相試験の投与終了時(投与 6 週後)と比べ、低下する傾向は認められなかった。

また、長期投与試験の各評価時点における「HDSS スコアの割合」は図 1(プラセボ/本薬群)及び図2(本薬/本薬群)のとおりであり、いずれの群も HDSS が 1 又は 2 の割合は投与 6 週後以降、同程度で推移していた。

安全性について

機構は、7.R.2.1~7.R.2.5 の検討結果から、原発性腋窩多汗症に対する本薬の安全性は許容可能と考える。

臨床的位置付けについて

申請者は、本薬の臨床的位置付けについて、以下のように説明した。

原発性腋窩多汗症に対しては、塩化アルミニウム外用療法があるが(原発性局所多汗症診療ガイドライン日皮会誌. 2015; 125: 1379-1400)、承認された製剤はないことから院内製剤が用いられており、処方は製剤調製の設備がある医療機関に限られている。重度の場合には、A 型ボツリヌス毒素の皮内投与が用いられるが、その使用は実技講習を受けた医師に限定される。その他、胸腔鏡下胸部交感神経遮断術等の手術療法、マイクロ波メス等の治療法、抗コリン薬であるプロパンテリン臭化物の内服療法がある。しかしながら、手術療法は代償性発汗の副作用のリスクがあること、マイクロ波メスは熱傷や神経損傷の危険があり実施できる医療機関が限られていること、抗コリン薬の内服療法は抗コリン作用に起因する副作用の発現リスクが高いこと等の問題点がある。

本薬は、局所で作用する外用の抗コリン薬であるため、A 型ボツリヌス毒素の皮内投与や手術療法等に比べると侵襲性は低く、本薬の使用にあたり、製剤調製や技術習得、特殊な機器を備えた施設等が不要である。また、本薬は内服治療で問題となる抗コリン作用による全身性の副作用のリスクが低い。臨床試験において、本薬の有効性が示され、安全性は許容可能と考えられることから、原発性腋窩多汗症に対する新たな治療選択肢となると考える。

機構は、本薬の有効性(7.R.1 参照)及び安全性(7.R.2 参照)を踏まえると、本薬は原発性腋窩多汗症に対する外用療法として、新たな治療選択肢となると考える。

効能・効果について

機構は、原発性腋窩多汗症患者を対象とした臨床試験において、本薬の有効性は示され(7.R.1 参照)、安全性は許容可能と考えられること(7.R.2 参照)から、本薬の効能・効果を「原発性腋窩多汗症」とす
ることは妥当と考える。

用法・用量について

申請者は、本薬の用法・用量について、以下のように説明した。

用量設定試験において、主要評価項目である「治療終了時(投与6 週)の両腋窩合計発汗重量のベースラインとの比が0.5 以下の患者割合」は、いずれの本薬群もプラセボ群に対して統計学的有意差は認められなかった(表28)が、追加解析として実施された「治療終了時(投与6 週)のHDSS が1 又は2であり、治療終了時(投与6 週)の両腋窩合計発汗重量のベースラインとの比が0.5 以下の患者の割合」では、本薬5%群及び本薬15%群がプラセボ群に対して高い傾向が認められた(表44)。

安全性について、用量設定試験の有害事象及び副作用の発現割合に用量依存性は認められなかった(表29 及び表30)。しかし、抗コリン作用に関連する有害事象は、プラセボ群1.9%(1/52 例)、本薬5%群1.9%(1/52 例)、本薬10%群7.8%(4/51 例)及び本薬15%群7.7%(4/52 例)であり、本薬10%群及び本薬15%群で高い傾向であった(表43)。

以上より、本薬の推奨濃度は5%と判断し、第III 相試験における本薬の用法・用量は5%を1 日1 回、適量を両腋窩に塗布することとした。その結果、第III 相試験において、本薬群はプラセボ群に対して統計学的に有意差が認められ(7.R.1 参照)、安全性も許容可能であった(7.R.2 参照)。

本薬の塗布タイミングについて、第III 相試験では就寝前と規定したが、長期投与試験では就寝前以外も可能とした。その結果、長期投与試験で「すべての塗布が就寝前」は45.4%(84/185 例)、「就寝前以外の塗布あり」は54.6%(101/185 例)であったが、「就寝前以外の塗布あり」101 例のうち継続的に就寝前以外に塗布していたのは2 例のみであった。塗布タイミング別の有効性について、「移行後52 週目のHDSS が1 又は2 であり、両腋窩合計発汗重量がBBI-4000-06 試験のベースライン3 との比が0.5以下の患者の割合」は、「すべての塗布が就寝前」で56.0%(47/84 例)、「就寝前以外の塗布あり」で59.4%(60/101 例)であり、両集団で同程度であった。また、塗布タイミング別の安全性について、有害事象の発現割合は「すべての塗布が就寝前」に比べ「就寝前以外の塗布あり」の方がやや高かったものの、重篤な有害事象、投与中断又は中止に至った有害事象等の発現割合は両集団で同程度であった(表45)。

塗布タイミングによる有効性及び安全性に大きな違いは認められないことから、本薬の塗布タイミン
グを就寝前に限定する必要はないと考えた。

以上より、本薬の用法・用量は、5%を1 日1 回、適量を両腋窩に塗布することで問題ないと考える。なお、1 回当たりの塗布量について、本薬は片側の腋窩に対してポンプ1 押し分(約0.5 g/0.7mL)を、専用アプリケーターを用いて塗布することとしていたことから、適切な使用方法を患者向け資材等により情報提供する。

機構は、本薬の用法・用量について、塗布タイミングを規定せず、1 日1 回腋窩に適量を塗布すると設定することは問題ないと考える。

抗コリン作用が影響する可能性がある他の治療との併用について

申請者は、抗コリン作用が影響する可能性がある他の治療との併用について、以下のように説明した。

原発性腋窩多汗症の他の治療と本薬の併用については、次のように考える。

長期投与試験では、原発性腋窩多汗症治療に関する他の治療法及び抗コリン薬(抗コリン作用を有する成分を含有する総合感冒薬を含む)の併用を可能としており、併用療法の有無別の有害事象の発現割合は表46 のとおりであった。全身性及び局所性の抗コリン薬について、併用なしの集団に比べ、併用ありの集団で有害事象の発現割合が高い傾向が認められたが、有害事象とされた感冒等に対して抗コリン作用を有する成分を含む総合感冒薬を服用した症例がほとんどであった。また、多汗症治療のためにプロパンテリン臭化物錠を併用したのは2 例であったが、抗コリン作用関連の有害事象は認められなかった。その他の併用療法については、併用例が少ないため十分な検討は困難であったが、発現した有害事象は概ね軽度であることから、特定の治療法との併用が問題となる可能性は低いと考える。

本薬は腋窩局所で有効性が認められ、全身性の薬理作用は小さいことから、本薬との併用が他の腋窩多汗症に対する治療法の安全性に及ぼす影響は小さいと考える。

抗コリン作用が影響する可能性があると考えられる薬剤との併用については、次のように考える。

長期投与試験において、抗コリン薬、経口コリン作動薬、セロトニン作動薬、β 遮断薬、α アドレナリン作動薬、ドパミン部分作動薬及び三環系抗うつ薬との併用例について検討した。抗コリン薬のうち、前述のプロパンテリン以外の抗コリン薬を併用したのは33 例であったが、併用前後でHDSS が大きく変動した被験者はなかった。33 例において、併用時に新たに発現した有害事象は14 例で認められたが、いずれも軽度で、副作用は3 例(適用部位紅斑、適用部位湿疹、適用部位皮膚、各1 例)であり、本薬及び併用した抗コリン薬の安全性に影響はなかった。α アドレナリン作動薬との併用は6 例(いずれもプソイドエフェドリン)で、併用前後でHDSS が大きく変動した被験者はなく、併用時に新たな有害事象は発現しなかった。経口抗コリン作動薬との併用は2 例(いずれもドンペリドン)、セロトニン作動薬との併用は1 例(モサプリド)、β 遮断薬との併用は1 例(ビソプロロール)であり、本薬及び併用薬の有効性及び安全性に影響を及ぼした例はなかった。ドパミン部分作動薬又は三環系抗うつ薬との併用例はなかった。抗コリン作用が影響する可能性のある薬剤は多種存在するが、本薬の局所塗布による血中への移行はわずかで蓄積性はなく、長期投与試験でも本薬あるいは併用薬の有効性及び安全性に及ぼす影響が示唆されていないことから、本薬との併用において留意すべき薬剤や留意点は特にないと考える。

機構は、以下のように考える。

本薬は全身性の作用は小さく、長期投与試験の安全性成績も踏まえると、本薬と他の治療法との併用時の安全性が問題となる懸念は低く、本薬との併用を制限する必要はない。ただし、本薬と他の治療法や抗コリン作用を有する薬剤を併用した試験成績は限られていることから、製造販売後調査等において、併用時の安全性を情報収集し、確認する必要がある。

製造販売後の検討事項について

申請者は、製造販売後に表47 のような一般使用成績調査を計画している。

目的 原発性腋窩多汗症患者を対象に、使用実態下における本薬の安全性、有効性等を検討する
調査方法 中央登録方式
対象患者 原発性腋窩多汗症の患者
目標症例数 450 例(安全性解析対象集団として)
観察期間 最長 58 週間
主な調査項目
  • ・患者背景(年齢、性、身長、体重、罹病期間、前治療、重症度、合併症、既往歴等)
  • 本薬投与状況(投与時間帯、投与日数等)
  • 有害事象(発現日、発現部位、重篤性、転帰、本薬との因果関係、本薬の再投与と再発等)
  • 抗コリン作用に関連する症状・徴候の有無
  • HDSS
  • 併用薬剤・併用療法

機構は、製造販売後において、低年齢及び高年齢の患者の情報も一定程度収集できるように考慮する必要があると考えるが、製造販売後調査計画等の詳細については、専門協議の議論を踏まえて最終的に判断したい。

参照

新医薬品の承認品目一覧

https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0010.html

PMDA医療用医薬品 情報検索

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

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一般名 ソフピロニウム臭化物
販売名 エクロックゲル5%
製造販売業者等 製造販売元/科研製薬株式会社
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