ビジネス全般

医薬品産業強化総合戦略 はじめに

2021年9月17日

はじめに

(1)本戦略の位置づけ

医薬品産業の競争力強化に向けた緊急的・集中実施的な総合戦略として、「革新的医薬品・医療機器創出のための官民対話(以下「官民対話」という)」等での関係者の意見も踏まえた上で厚生労働省が策定するものである。特にイノベーションの推進や国際支援に係る部分については、「健康・医療戦略」等を踏まえ、医薬品産業を取り巻く関連施策を所管する厚生労働省の立場から更に深掘りするものという位置づけのものである。

厚生労働省では、これまでも概ね5年間隔で「医薬品産業ビジョン」を策定しており、「医薬品産業ビジョン 2013」では、我が国を真に魅力のある創薬の場にすることを目指し、厚生労働省の立場から中長期的な道筋を示した。本年6月末に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2017(以下「骨太の方針 2017」という)」において、「2020 年(平成 32 年)9月までに、後発医薬品の使用割合を 80%とし、できる限り早期に達成できるよう、更なる使用促進策を検討する。バイオ医薬品及びバイオシミラーの研究開発支援方策等を拡充しつつ、バイオシミラーの医療費適正化効果額・金額シェアを公表するとともに、2020 年度(平成 32 年度)末までにバイオシミラーの品目数倍増(成分数ベース)を目指す。」という新たな目標が設定された。後発医薬品の更なる使用促進により、市場環境は非常に大きく変化する。このことは、後発医薬品メーカーによる質・量両面にわたる改善が喫緊の課題となることはもとより、何よりも新薬メーカーには先発医薬品の国内市場の相対的な縮小を意味し、多大な影響を及ぼすものとなる。

また、2016 年(平成 28 年)に策定された「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」には、「我が国の製薬産業について、長期収載品に依存するモデルから、より高い創薬力を持つ産業構造に転換するため、革新的バイオ医薬品及びバイオシミラーの研究開発支援方策等の拡充を検討するとともに、ベンチャー企業への支援、後発医薬品企業の市場での競争促進を検討し、結論を得る。」と盛り込まれた。

骨太の方針 2017 や「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」も踏まえ、「後発医薬品 80%時代」においても、「国民への良質な医薬品の安定供給」・「医療費の効率化」・「産業の競争力強化」を三位一体で実現するため、医薬品産業の競争力強化に向けた緊急的・集中実施的な総合戦略を見直す。創薬を巡る国際競争は厳しさを増す一方であり、我が国として産業構造やイノベーションを生み出す力が現状のままでは、日本の創薬産業は生き残りが困難な状況となる。これまでも、「健康・医療戦略」等によるイノベーションの推進、AMED の創設による研究開発予算の一元化、臨床研究中核病院をはじめとした治験環境の整備などを進めてきた。

今後も、魅力ある研究開発・規制・事業環境の整備により、日本発の創薬産業拠点の創出に向けた動きを加速していく。また、ゲノム創薬、核酸医薬、AI や個別化医療、ビッグデータ利活用の進展等の治療・開発アプローチの変化を捉え、バイオ医薬品においても、有効性・安全性に優れ、競争力がある低コストで効率的な創薬を実現できる環境を整備していくこととする。最終的には、海外市場にも展開する「創薬大国」の実現を目指すものである。

(2)本戦略の基本的考え方

我が国は世界で数少ない新薬創出国であり、知識集約型産業である医薬品産業は経済成長を担う重要な産業とし期待されており、アベノミクスの第三の矢である「日本再興戦略」や、「健康・医療戦略」においても、成長産業の柱の一つとして位置づけられている。

その一方で、我が国の医薬品産業については、これまで多数の課題が指摘されてきた。

《主な現状と課題》

Ⅰ 我が国は数少ないグローバルな医薬品開発の拠点の一角を占めている
Ⅱ 医薬品開発の費用は高騰する一方、日本企業の規模は小さい
Ⅲ 多くの大手製薬企業が長期収載品に収益を依存しており、転換が急務
Ⅳ 基礎的医薬品は、度重なる薬価改定で一部について採算が悪化、安定供給策が必要
Ⅴ 後発医薬品市場は、経営規模が小さい企業が多数存在し、体質強化が課題

医薬品産業に求められるのは、「国民への良質な医薬品の安定供給」・「医療費の効率化」・「産業の競争力強化」を三位一体で実現することである。この三つは、それぞれ独立したものではなく、相互に関連するものである。例えば、「医療費の効率化」は、医療保険財政の改善に資するものであり、「国民への良質な医薬品の安定供給」に寄与する。また、我が国の医薬品産業が競争力を失ったり、研究開発拠点としての魅力が低くなったりした場合には、国民への医薬品の供給が他の先進国より遅くなるといったことも想定される。

上記のような現状と課題を踏まえ、医薬品産業に求められる「国民への良質な医薬品の安定供給」・「医療費の効率化」・「産業の競争力強化」を三位一体で実現するため、本戦略では「イノベーションの推進」・「質の高い効率的な医療の実現」・「日本発医薬品の国際展開の推進」を基本理念として位置づける。

【イノベーションの推進】

2015 年(平成 27 年)時点における世界売上げ上位 150 品目のうち、主要5カ国中で米国に一番目に上市した品目が約 60%であるのに対し、我が国に一番目に上市した品目は4%であり、約半数が5番目の上市となっている。また、創薬大国である米国では、FDA 優先審査対象新薬の半数以上がバイオベンチャー起源となっている。

臨床研究・治験には多くの期間と費用がかかるが、近年は世界同時開発による国際共同治験の大規模化等に伴い研究開発費用も高騰している。今後は、個別化医療の発展に伴う特定の疾患群を対象とした適切な規模の臨床研究・治験の実施や、AI や iPS 細胞技術の創薬応用による研究開発プロセスの効率化により、効果の高い医薬品をより早く患者に届けることが必要となる。国においては、こうした創薬のパラダイムシフトを踏まえ、臨床研究・治験活性化等のための措置を講ずることや、規制制度の改革、イノベーションの適正な評価を行うことが重要であり、我が国は世界をリードする「治験先進国」を目指すべきである。そのためにも、アカデミア等で発見された優れたシーズの実用化を促進するために、産学官が連携して取り組むとともに、創薬産業を支える我が国のバイオベンチャーを創出するため、製薬企業等との連携の促進や上場後も含めた資金調達環境の改善などを通して、バイオベンチャーのエコシステムを確立することが必要である。

【質の高い効率的な医療の実現】

高齢化が進む中で、国民皆保険制度を維持するためには、その質を確保した上で効率的な医療を進めることが必要である。質の高い効率的な医療を実現するため、後発医薬品の使用の加速化とともに、臨床の必要性が高く将来にわたり継続的に製造販売されることが求められる医薬品の安定供給が重要である。また、医薬品が全国の医療機関等へ安定的に供給されるためにも、流通の安定化・近代化が必要である。

【日本発医薬品の国際展開の推進】

日本の市場構造が大幅に変化し、アジア新興国や BRICs 諸国の市場シェアが伸びている中で、行政も産業界もこれまで以上にグローバル視点での対応が求められる。アジアにおいて中間層の拡大が予想される中で、日本人を含めたアジア系人種での治験が重要になるとの基本的な認識を踏まえるべきである。こうした中で特に、国として新薬メーカーに期待するのはグローバルに展開できる革新的新薬の創出であり、医薬品産業の将来像を検討していく上での論点として、事業規模の拡大等も提示している。産業の将来像について、国においては今後も新たなビジョンの策定を行っていくが、産業界においても産業としての新たな将来像を踏まえ、自らの経営戦略に関し、自らの経営基盤力の上に、名実ともにグローバルな競争に真に打ち克つことのできる企業となるべく、資本力・研究開発力・グローバルな人材確保等の企業力などを強化されることを期待したい。

参照

「医薬品産業強化総合戦略~グローバル展開を見据えた創薬~」の一部改訂について(公表)

医薬品産業ビジョン2021(令和3年9月13日)

令和4年度厚生労働科学研究の概要

-ビジネス全般

© 2024 RWE