ビジネス全般

新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

1.研究事業の目的・目標

【背景】

治療薬の発達や予防接種の普及によって、一時は制圧されたかに見えた感染症は、新興感染症・再興感染症として今なお猛威をふるう可能性を有している。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行が発生し未だ収束も見えない他、アフリカではエボラ出血熱が再び流行し、H5N8鳥インフルエンザが世界中で猛威をふるった。また、新興感染症対策や予防接種に対する国民の期待は高まりをみせている。

このような状況の中で、危機管理事案の発生時に、直ちに正確な病原体診断を全国規模で実施できるようなラボネットワーク、感染症指定医療機関の機能の充実、安全性を踏まえた費用対効果の高い予防接種体制の構築等が求められている。

本事業では、感染症の潜在的なリスクに備え、必要な行政対応の科学的根拠を示し、感染症から国民の健康を守るための研究を実施する。

【事業目標】

① 国内での発生が危惧される新興・再興感染症に対して、科学的なエビデンスに基づいた政策を推進するための研究を行う。

② 適正かつ継続的な予防接種政策を行うため、疫学的な有効性・安全性及び費用対効果に関する評価・情報提供に関する研究を行う。

【研究のスコープ】

① 感染症に関する危機管理機能の強化に資する研究

外国で発生している感染症や国内で発見された未知の病原体等について情報集約を行い、我が国への侵入リスクやとるべき対策を評価・分析するとともに、我が国への病原体の侵入を阻止する水際対策、国内流行を早期に抑える封じ込め対策、流行のピークを抑える感染拡大防止対策、危機対応医薬品等の研究開発・備蓄等の包括的な危機管理能力の向上に資する研究を行う。また、引続き、目下の脅威である新型コロナウイルス対策に資する研究を行う。

②感染症法に基づく感染症予防基本指針の改定、特定感染症予防指針の策定・改定及び感染症対策の総合的な推進に資する研究

感染症法第 10 条に基づき、厚生労働大臣が感染症の予防の総合的な推進を図るために定めた基本指針の改訂や、同法 11 条に基づき、同大臣が特に総合対策を推進する必要があると指定した疾患について定めた特定感染症予防指針について、策定及び改訂に資する研究を行う。

③感染症サーベイランス機能の強化に資する研究

感染症法第 15 条に基づく感染症の発生動向の把握(サーベイランス)について、手法の開発、標準化、質の向上等を図るための調査研究を行う。

④ワクチンの評価に資する研究

予防接種法の対象ワクチンについて、疫学的な有効性や安全性等に関する実証的な研究を行う。

⑤予防接種施策の推進に資する研究

新たな予防接種の導入や接種方法の見直し、生産・流通及び研究開発を促進するための施策等の見直しに必要な実証的・規範的な研究を行う。

⑥感染症指定医療機関等における感染症患者に対する医療体制の確保及び質の向上に資する研究

国際的に脅威となる感染症の発生に備え、感染症指定医療機関の体制や、同医療機関における診療法の標準化、診療マニュアルの整備等により、感染症医療体制の構築及び整備を行う。

⑦AMR 対策に資する研究

2021 年に改訂された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づき対策を推進するとともに、得られた科学的知見の集積や評価・分析を行う。また耐性菌の遺伝子情報や薬剤耐性菌がどのように人の環境に流入しているか等のサーベイランスを進めていく。

【期待されるアウトプット】

新型コロナウイルス対策に資するゲノムサーベイランスに関する研究や新型コロナウイルス感染症の実態把握に加え、新型コロナワクチンの有効性、安全性の確認が期待される。また、新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、国民の健康に大きな影響を与えうる海外の感染症に対する監視、危機管理能力を向上し、感染症インテリジェンス能力を向上するための科学的アプローチを改善するとともに、科学的根拠に基づく水際対策、国内における早期検知と封じ込め、国内流行時における医療へのインパクトを抑制するための強靱な感染症・予防接種政策を検討する上で基盤となる科学的根拠を構築する。特に、パンデミックにおける医療機能の確保等、新型コロナウイルス感染症対策で浮き彫りとなった課題について、医療法の改正に伴う医療計画の見直し作業に連動する形で、感染症予防基本指針及び特定感染症予防指針の改定及び必要に応じた策定のための政策研究を推進する。

【期待されるアウトカム】

ポストコロナも見据え、予防接種の推進、インテリジェンス機能の構築、リスクアセスメント能力の向上、感染症危機発生時の診療体制や公衆衛生施策、研究開発施策など、感染症の予防、準備、検知、対応に係る感染症対策の総合的な対策を推進し、国民の健康を守る。また、感染症予防基本指針や特定感染症予防指針の改正・策定により、ポストコロナ時代の強靱な健康安全保障体制を構築するための科学的根拠を提供する。

2.これまでの研究成果の概要

  • ①感染症サーベイランスシステムの改善と東京オリンピック・パラリンピックの検査系を開発した(平成 30~令和2年度。令和2年度終了。)。
  • ②新型コロナウイルス感染症に対する回復者血漿両療法の安全性と有効性を検証し、回復者血漿の採取・保存・投与体系を確立した(平成 30~令和2年度。後継班が継続中。)。
  • ③臨床検体のプール化による COVID-19 の検査性能への影響評価として各種 PCR 検査の性能を検証し、その有効性と課題を明らかにし、プール検体を用いた検査の活用方法を開発した。(平成 30 年~令和2年度。後継班が継続中。)。
  • ④新型コロナウイルス感染症について、唾液、鼻腔拭い液を用いた PCR 検査及び抗原検査の診断への活用方法を確立した(令和2年度終了。)。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

新型コロナウイルス感染症への対応の検証を含め、新型コロナウイルス感染症の対策に資する研究を引き続き推進するとともに、今後同様の事態となった場合に備え、感染症に関する危機管理機能の強化に資する研究、感染症サーベイランス機能の強化に資する研究、感染症指定医療機関等における感染症患者に対する医療体制の確保及び質の向上に資する研究、その他の感染症対策の総合的な推進に資する研究を推進する。

AMR 対策に関しては、アクションプランの改定及びモデル事業の開始が予定されており、今後の対策に向けた評価・分析が必要と考えられ、令和3年度も引き続き推進する。

予防接種に関しては、令和3年から接種が開始された新型コロナワクチンの有効性・安全性及び副反応について、引き続き評価・分析を推進する。また引き続きインフルエンザの流行株の予測やサーベイランスの強化に取り組むと共に、子宮頸がんワクチンの評価・分析を推進する。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

①感染症に関する危機管理機能の強化に資する研究

今後ますます人の往来や物流が活発化していく中で、特に、令和3年3月現在世界的に流行している新型コロナウイルスと同様の事態が今後発生した場合に備え、感染症への対応の検証に関する研究を実施する。また、国民やマスメディア等に対する情報発信の内容やタイミング等についても強化の必要があることから、平時及び有事において求められる、感染症に係るリスクコミュニケーションを含む、パブリック・リレーションの方策について検討を行う。

②AMR 対策に資する研究

AMR ワンヘルス東京会議で進められている ASPIRE(AMR に関するアジア太平洋ワンヘルス・イニシアチブ)のワーキンググループを通じた国際協力について検討を行う。また、AMR アクションプランの改訂も踏まえつつ、研究開発の推進のためのインセンティブ創出に関する検討、並びに既存および新規の情報管理プラットフォームについて統合も含めた分野横断的な検討を行う。

③予防接種施策の推進及びワクチンの評価に資する研究

開発優先度の高いワクチンに関する基礎データを迅速に収集・評価する方法の整理や、ワクチンの安定供給等に関する体制の強化に資する検討など、予防接種基本計画に記載されている事項について研究を推進する。また、既存のワクチンについてより安全、有効かつ経済的なワクチン施策の見直しなどに活用可能な知見を集積する。さらに、HPV ワクチン等のワクチン接種後の副反応に関する適切な診療を提供する体制の整備に取り組む。

新型コロナワクチンについては、新たに承認されたワクチンの有効性、安全性などについての疫学研究を行う。また①と関連するが、新型コロナワクチンに関する的確かつ丁寧なコミュニケーションの研究開発を行うと共に、新型コロナワクチンの予防接種事業の検証を行い、次の流行に備えた対応策の研究を行う。その他、ワクチン接種開始後に判明した課題についての研究を行う。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

  • 新型コロナウイルス感染症や一類感染症、新型インフルエンザ等の発生時に備え、各研究で得られた成果をガイドラインや対応マニュアル等の作成及び改定に活用し、全国統一的な感染症危機管理体制の整備、機能強化を図る。
  • 新型コロナウイルス感染症への対応の検証を行い、今後同様の事態となった場合に備えた対応マニュアル等の作成を検討する。
  • 「抗菌薬適正使用推進モデル事業」の評価及び全国に普及可能なモデル事業の確立の他、政策への検討材料として活用し、AMR 対策の更なる推進を図る。
  • 予防接種に関する各研究で得られた成果は、厚生科学審議会での審議・検討や、予防接種法・予防接種基本計画及び各種ガイドライン・マニュアル等の見直し等に活用し、予防接種施策の推進を図る。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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