第1章 社会的背景の変化と教育の情報化

第1節 社会における情報化の急速な進展と教育の情報化

1.社会における情報化の急速な進展と教育の情報化

近年,知識・情報・技術をめぐる変化の速さが加速度的となり,情報化やグローバル化といった社会的変化が,人間の予測を超えて進展するようになってきている。

とりわけ,第4次産業革命ともいわれる,人工知能(AI: Artificial Intelligence),ビッグデータ,IoT(Internet of Things),ロボティクス等の技術の急速な進展に伴い,これらの先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられ,社会の在り方そのものが現在とは「非連続的」と言えるほど劇的に変わる「Society5.0」時代の到来が予測されている。

このように急激に変化し,将来の予測が難しい社会においては,情報や情報技術を受け身で捉えるのではなく,主体的に選択し活用していく力が求められる。

加えて,今後の我が国においては,少子高齢化の進展,生産年齢人口の減少による,労働力の不足や公共サービスの低下などが懸念されており,ICT(Information and Communications Technology:情報通信技術),AI,ロボットなどの活用は経済社会水準の維持のためにも不可欠である。今の子供たちが活躍する頃の社会では,AI やロボット,IoT などをはじめとする情報技術は生活の中で当たり前のものとして存在していると考えられ,これらの情報技術を手段として効果的に活用していくことの重要性は一層高まっていくこととなる。

一方で,スマートフォンやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が急速に普及し,その利用も低年齢化する中,これらの利用を巡るトラブルなども増大しており,子供たちには,情報や情報技術を適切かつ安全に活用していくための情報モラルも身に付けさせていく必要がある。

このように,社会生活の中でICT を日常的に活用することが当たり前の世の中となる中で,社会で生きていくために必要な資質・能力を育むためには,学校の生活や学習においても日常的にICT を活用できる環境を整備し,活用していくことが不可欠である。さらにICT は,教師の働き方改革や特別な配慮が必要な児童生徒の状況に応じた支援の充実などの側面においても,欠かせないものとなっている。

これからの学びにとっては,ICT はマストアイテムであり,ICT 環境は鉛筆やノート等の文房具と同様に教育現場において不可欠なものとなっていることを強く認識し,その整備を推進していくとともに,学校における教育の情報化を推進していくことは極めて重要である。

2.「教育の情報化」について

(1)教育の情報化について

「教育の情報化」とは,情報通信技術の,時間的・空間的制約を超える,双方向性を有する,カスタマイズを容易にするといった特長を生かして,教育の質の向上を目指すものであり,具体的には次の3つの側面から構成され,これらを通して教育の質の向上を図るものである。

① 情報教育:子供たちの情報活用能力の育成

② 教科指導におけるICT 活用:ICT を効果的に活用した分かりやすく深まる授業の実現等

③ 校務の情報化:教職員がICT を活用した情報共有によりきめ細やかな指導を行うことや,校務の負担軽減等

あわせて,これらの教育の情報化の実現を支える基盤として,

  • 教師のICT 活用指導力等の向上
  • 学校のICT 環境の整備
  • 教育情報セキュリティの確保

の3点を実現することが極めて重要である。

(2)教育の情報化の進展

① 平成元年告示学習指導要領

我が国の初等中等教育における情報化への対応は,昭和40 年代後半に高等学校の専門教育において,情報処理教育が行われるようになったことに端を発しているが,「情報活用能力」の育成という観点については,臨時教育審議会(昭59.9~62.8)と教育課程審議会(昭60.9~62.12),並びに情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議(昭60.1~平2.3)における検討を経て,将来の高度情報社会を生きる子供たちに育成すべき能力という観点から,「情報活用能力」を学校教育で育成することの重要性が示されたことが発端といえる。

特に臨時教育審議会第二次答申においては,「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質(情報活用能力)」を読み,書き,算盤(そろばん)に並ぶ基礎・基本と位置付け,今日の情報教育の基本的な考え方になっている。

教育課程審議会答申では,「社会の情報化に主体的に対応できる基礎的な資質を養う観点から,情報の理解,選択,処理,創造などに必要な能力及びコンピュータ等の情報手段を活用する能力と態度の育成が図られるよう配慮する。なお,その際,情報化のもたらす様々な影響についても配慮する」と提言された。

これらの答申を受けて,平成元年告示の学習指導要領では,中学校技術・家庭科において,選択領域として「情報基礎」が新設され,中学校・高等学校段階で,社会科,公民科,数学科,理科,家庭科(高等学校)など関連する各教科で情報に関する内容が取り入れられるとともに,各教科の指導において教育機器を活用することとされた。

平成2 年7 月には,情報教育の在り方,学習指導要領で示された情報教育の内容,情報手段の活用,コンピュータ等の条件整備の在り方,特殊教育における情報教育,教員研修の在り方などについて解説した「情報教育に関する手引」が刊行された。

② 平成10 年・11 年告示学習指導要領

平成8 年10 月に「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」において情報教育について具体的な検討が始められ,平成9 年10 月に「体系的な情報教育の実施に向けて」(第1 次報告)が提言され,情報教育の基本的な考え方と体系的な情報教育の内容について整理された。

これを踏まえ,教育課程審議会から平成10 年7 月に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校,盲学校,聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改定について」が答申され,中学校技術・家庭科における「情報とコンピュータ」を必修にすることと,高等学校普通科に教科「情報」を新設し必修とすることが提言された。

教育課程審議会答申等を受け,平成10 年12 月に小学校及び中学校学習指導要領が改訂,公示された(高等学校学習指導要領は平成11 年3 月告示)。この学習指導要領では,

1) 小・中・高等学校段階を通じて,各教科や総合的な学習の時間においてコンピュータや情報通信ネットワークの積極的な活用を図るとともに,

2) 中学校・高等学校段階において,情報に関する教科・内容を必修とするなど,

情報教育の充実を図った。具体的には,中学校技術・家庭科(技術分野)で「情報とコンピュータ」を必修(発展的な内容は生徒の興味・関心に応じて選択的に履修)とするとともに,高等学校で普通教科「情報」を新設し必履修(「情報A」「情報B」「情報C」(各2 単位)から1 科目を選択必履修)とするとともに,専門教科「情報」を新設した(11 科目で構成)。

平成14 年6 月には,情報活用能力の育成の基本的考え方,各学校段階・各教科等との関わりなどの記述を充実するなど,情報活用能力の育成という視点に重点を置いて「新・情報教育に関する手引」(情報教育の実践と学校の情報化)が刊行された。このほか,平成14 年8 月には,「確かな学力」の向上を主眼とした「IT で築く確かな学力~その実現と定着のための視点と方策~」が取りまとめられた。

③ 平成20 年・21 年告示学習指導要領

平成20 年1 月の中央教育審議会答申において,「社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項」の一つとして「情報教育」が挙げられ,「情報活用能力をはぐくむことは,基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とともに,発表,記録,要約,報告といった知識・技能を活用して行う言語活動の基盤となるもの」として重要性が指摘された。

また,情報化の影の部分も子供たちに大きな影響を与えており,インターネット上の誹謗中傷やいじめ,個人情報の流出やプライバシーの侵害,有害情報やウィルス被害に巻き込まれるなどの問題への対応として,学校では家庭と連携しながら,情報モラルについて指導することが重要であるとされた。

こうしたことから,小・中・高等学校を通じて,各教科等において,コンピュータや情報通信ネットワークの活用,情報モラルに関する指導の充実を図ることや,情報活用能力の育成に係る中学校技術・家庭科(技術分野)や高等学校普通教科「情報」における内容の改善について提言された。

また,「諸外国に比べて我が国では学校におけるICT 環境整備が遅れている現状を踏まえ,学校における情報機器や教材の整備や支援体制等,ICT に関する条件整備も必要である」ことも提言された。

平成20 年3 月,小学校及び中学校の学習指導要領が公示され,教育の情報化について,情報教育及び教科指導におけるICT 活用の両面で様々な充実が図られた。また,平成21 年3 月には,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領が公示され,小・中学校と同様に情報教育及び教科指導におけるICT 活用について様々な充実が図られた。

これらを受け,平成21 年3 月には,「教育の情報化」が「教育の質の向上」において重要な位置付けにあるとの考えの下,教員・児童生徒双方によるICT活用や情報モラル教育を含む情報教育、校務の情報化に関する記述の充実など,構成や内容を大きく見直した,小・中学校及び特別支援学校に対応した「教育の情報化に関する手引」が刊行された。平成22 年10 月には高等学校に対応した内容の追補版が公開された。

④ 平成29 年・30 年・31 年告示学習指導要領

平成28 年12 月の中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」においては,「言語能力」等と同様の「教科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される資質・能力」の一つとして「情報活用能力」を掲げ,「教育課程全体を見渡して組織的に取り組み,確実に育んでいくことができるようにすることが重要である」とし,学習指導要領等に反映していくことが提言された。

さらに同答申では,発達の段階に応じて情報活用能力を体系的に育んでいくことの重要性や,将来どのような職業に就くとしても,時代を超えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」などを育むプログラミング教育の実施を発達の段階に応じて位置付けていくことが求められること,「学校の生活や学習においても,日常的にICTを活用できる環境を整備していくことが不可欠である」こと等を提言するとともに,小学校段階においてもプログラミング教育を位置付けることや高等学校の共通必履修科目として「情報Ⅰ」を設定すること等も提言された。

これを受け,平成29 年3 月に小学校及び中学校の学習指導要領が,同年4 月に特別支援学校小学部・中学部の学習指導要領が公示され,「情報活用能力」を言語能力等と同様に「学習の基盤となる資質・能力」と位置付け,その育成を図るために,「各教科等の特質を生かし,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図る」こととされ,また,情報活用能力の育成を図るため,各学校においてICT 環境を整備し,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ることとされた。

あわせて,小学校及び特別支援学校小学部の学習指導要領においてICT の基本的な操作を習得するための学習活動及びプログラミング教育を各教科の特質に応じて計画的に実施することとされたことをはじめ,各学習指導要領において情報教育及び教科指導におけるICT 活用の両面で様々な充実が図られた。

平成30 年3 月に公示された高等学校学習指導要領及び平成31 年2 月に公示された特別支援学校高等部学習指導要領においても,小・中学校と同様に「情報活用能力の育成」やICT 環境の整備等について記載がされるとともに,高等学校においては「情報Ⅰ」が必履修科目として新設されるなど情報教育及び教科指導におけるICT 活用について様々な充実が図られた。

➄ 教育の情報化に関する政府全体としての主な政策・提言等

昨今教育の情報化は政府全体の重要課題と位置付けられており,教育やICT 関係の計画等にとどまらず様々な計画等において位置付けられている。ここでは,本手引の内容に関連する主要なものを数点紹介する。

  • 「教育振興基本計画」(平成30 年6 月15 日閣議決定)
    教育振興基本計画は,教育基本法に示された理念の実現と,我が国の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るため,同法第17 条第1 項に基づき政府として策定する計画であり,平成30 年6 月15 日付けで,第3 期の教育振興基本計画が閣議決定された。同計画における「今後5 年間の教育政策の目標と施策群」において教育の情報化の関連では,以下の施策などを推進することとしている。
目標(2)豊かな心の育成

  • 青少年の健全育成
    • 青少年を有害情報から守るため,学習指導要領に基づき情報モラル教育を推進するとともに,スマートフォンをはじめとしたさまざまなインターネット機器の普及への対応も含め,フィルタリングやインターネット利用のルールに関する普及啓発活動を地域,民間団体等との連携により実施する。

目標(3)健やかな体の育成

  • 子供の基本的な生活習慣の確立に向けた支援
    • 情報モラル教育の一環として,学校・家庭・地域の連携による,子供自身が主体的に情報機器を適切に利用できるようにする取組を促進する。

目標(8)大学院教育の改革等を通じたイノベーションを牽引する人材の育成

  • IT・データ活用能力の育成
    • 初等中等教育におけるプログラミング的思考を含む情報活用能力の育成に向け,官民協働のコンソーシアムにおいて,プログラミング教育に関する民間による教材開発の促進や学校が外部の人材を活用しやすくする仕組みの構築に向けた取組を推進する。さらに,突出した意欲・能力を有する児童生徒の能力を大きく伸ばすための大学・民間団体等と連携した教育を行う機会の提供を推進する。

目標(17)ICT利活用のための基盤の整備

初等中等教育段階について,①情報活用能力(必要な情報を収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力(ICTの基本的な操作スキルを含む)や,情報の科学的理解,情報社会に参画する態度)の育成,②主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善に向けた各教科等の指導におけるICT活用の促進,③校務のICT化による教職員の業務負担軽減及び教育の質の向上,④それらを実現するための基盤となる学校のICT環境整備の促進に取り組む。また,私立学校についても,国公立学校の状況を勘案しつつ,ICT環境整備を推進する。

(測定指標)

  • 教師のICT活用指導力の改善
  • 学習者用コンピューターを3クラスに1クラス分程度整備
  • 普通教室における無線LANの100%整備
  • 超高速インターネットの100%整備
  • ICTを活用した教育を実施する大学の割合の改善

(参考指標)

  • 児童生徒の情報活用能力
  • 校務のICT化による教職員の業務負担軽減の効果
  • 情報活用能力の育成
    • 新学習指導要領において,情報活用能力(情報モラルを含む。)が学習の基盤となる資質・能力として位置付けられたことを踏まえ,その育成に係る優れたカリキュラム・マネジメント事例を創出し,普及を図る。また,情報モラルの育成を推進するため,指導資料や啓発資料の作成・配布等を行うとともに,官民が連携してプログラミング教育の推進に向けた指導事例の創出・普及等,教師の指導力向上を図る取組を行う。さらに,放課後にプログラミング等のICTに関する継続的・発展的な学習機会の提供の促進を図る。
  • 各教科等の指導におけるICT活用の促進
    • 教師のICTを活用した指導力の向上を図るための指導資料の作成・配布や指導的立場の教師等への研修を行うとともに,主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善に向けたICT活用実践事例の創出及び普及を図る。
    • 多様性ある学習や専門性の高い授業等を実現させる観点から,遠隔教育の推進を図る。
    • 障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供に向け,障害の状態等に応じた情報保障やコミュニケーションの方法,教材(ICT 及び補助用具を含む。)の活用について配慮するよう周知を行う。
  • 校務のICT化による教職員の業務負担軽減及び教育の質の向上
    • 教職員の業務負担軽減に効果的な統合型校務支援システムの整備を図るため,調達コスト及び運用コスト抑制に向け,都道府県単位での共同調達・運用を促進する。
    • 統合型校務支援システムを発展させ,成績,出欠又は学籍に関する情報等の校務情報を,学習記録データ(学習成果物等の授業・学習の記録)と有効につなげ,学びを可視化することを通じ,教師による学習指導や生徒指導等の質の向上,学級・学校運営の改善等に資するための実証研究を推進し,成果の普及に関係府省が連携して取り組む。
  • 学校のICT環境整備の促進
    • 「平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針」に基づき,学習者用コンピューターや大型提示装置,超高速インターネット,無線LANの整備など,各自治体による計画的な学校のICT環境整備の加速化を図る。あわせて,「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の普及や改定など,学校における情報セキュリティの確保に取り組み,教師及び児童生徒が安心して学校でICTを活用できる環境の整備を促進する。また,地方公共団体へICT活用の専門家を派遣し,各地域におけるICT環境整備推進に向けた課題解決を支援する。
    • 私立学校については,国公立学校の状況を勘案しつつ,学校のICT環境整備の促進に取り組む。
  • 「経済財政運営と改革の基本方針2019」~「令和」新時代:「Society5.0」への挑戦~(令和元年6 月21 日閣議決定)
    令和元年6 月,令和の時代の新しい日本の在り方,Society5.0 への挑戦を前面に据えた「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる「骨太の方針」が取りまとめられた。同方針においては,「Society5.0 時代にふさわしい仕組みづくり」の中の「少子高齢化に対応した人づくり革命の推進」において,遠隔教育等の教育の情報化の推進,学校のICT 環境整備,教育データのデジタル化・標準化等の施策を推進することとされた。
  • 「成長戦略実行計画」「成長戦略フォローアップ」(令和元年6 月21 日閣議決定)
    令和元年6 月,我が国が第4 次産業革命の新たな汎用技術の潜在力を最大限にいかし,生産性向上や経済成長につなげるための戦略として,「Society5.0 の実現」等を柱とする「成長戦略実行計画」「成長戦略フォローアップ」が閣議決定され,それらの中で学校のICT 環境整備,デジタル教科書の活用,プログラミング教育,遠隔教育等の施策を推進することとされた。
  • 「統合イノベーション戦略2019」(令和元年6 月21 日閣議決定)
    令和元年6 月,「Society5.0 の社会実装,創業・政府事業のイノベーション化の推進」等を柱として策定された「統合イノベーション戦略2019」においては,特に取組を強化すべき主要分野として「AI 技術」を掲げ,『全ての高等学校卒業生が,「理数・データサイエンス・AI」に関する基礎的なリテラシーを取得』すること等を目標として掲げ,教育の情報化について,学校における外部人材やICT に精通した人材の登用,学校のICT 環境整備,「情報Ⅰ」の研修教材の充実と入試における採用拡大等の施策を推進することとされた。
  • 「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(令和元年12 月5 日閣議決定)
    令和元年12 月,「未来への投資と東京オリンピック・パラリンピック後も見据えた経済活力の維持・向上」等を柱として策定された「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」においては,「初等中等教育において、Society 5.0 という新たな時代を担う人材の教育や、特別な支援を必要とするなどの多様な子供たちを誰一人取り残すことのない一人一人に応じた個別最適化学習にふさわしい環境を速やかに整備するため、学校における高速大容量のネットワーク環境(校内LAN)の整備を推進するとともに、特に、義務教育段階において、令和5 年度までに、全学年の児童生徒一人一人がそれぞれ端末を持ち、十分に活用できる環境の実現を目指すこととし、事業を実施する地方公共団体に対し、国として継続的に財源を確保し、必要な支援を講ずることとする。あわせて教育人材や教育内容といったソフト面でも対応を行う。」とされた。
⑥教育の情報化に関する文部科学省における最近の主な報告等

教育の情報化に関する文部科学省の個別施策については,本手引の関係する各章において言及するが,直近の複数の施策にまたがる主な報告等を紹介する。

  • 「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」
    文部科学省では,平成30 年11 月に公表した「新時代の学びを支える先端技術のフル活用に向けて~柴山・学びの革新プラン~」を受けて,「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」を令和元年6 月に取りまとめた。
    同まとめにおいては,ICT を基盤とした最適な先端技術・教育ビッグデータを効果的に活用することで,子供たちの力を最大限引き出し,「多様な子供たちを誰一人取り残すことのない,公正で個別最適化された学び」を実現するため,目指すべき次世代の学校・教育現場を具体的に提示し,その現状と課題を整理した。その上で,ICT を基盤とした先端技術の効果的な活用に関する基本的考え方の提示,諸外国の分析等を踏まえつつ,教育ビッグデータの利活用に向けた取組の推進,クラウドや「SINET」の活用,具体的な整備モデルの提示等による安価で使いやすいICT 環境整備の促進といった今後の取組方策を打ち出している。
  • 「新しい時代に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(平成31 年1 月25 日中央教育審議会答申)
    平成29 年6 月に文部科学大臣からの諮問を受け,平成31 年1 月に取りまとめられた答申「新しい時代に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」においては,別紙でこれまで学校・教師が担ってきた14 の業務の役割分担・適正化について整理を行っている。
    その中で,「教師の業務だが,負担軽減が可能な業務」に分類されている「授業準備」「学習評価や成績処理」「進路指導」の業務において,負担軽減の観点から,ICTの活用やICT 環境の整備等に関する提言がされている。
⑦学校教育の情報化の推進に関する法律

令和元年6 月,「学校教育の情報化の推進に関する法律」が成立し,公布・施行された。同法は,学校教育の情報化の推進に関し,基本理念を定め,関係者の責務を明らかにすること等により,学校教育の情報化の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって次代の社会を担う児童生徒の育成に資することを目的としている。

同法においては,学校教育の情報化の推進に関し,国,地方公共団体,学校の設置者それぞれの責務を示すとともに,文部科学大臣に,学校教育の情報化の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための「学校教育情報化推進計画」を定めることを義務付けており,また,都道府県及び市町村(特別区を含む)に対して各団体の区域における学校教育の情報化の推進に関する施策についての計画(「都道府県学校教育情報化推進計画」又は「市町村学校教育情報化推進計画」)を定める努力義務を課している。

また,学校教育の情報化の推進に関する施策として,「デジタル教材等の開発及び普及の推進」等を掲げ,国が必要な措置を講ずることとするとともに,関係行政機関相互の調整により学校教育の情報化の総合的,一体的かつ効果的な推進を図るため「学校教育情報化推進会議」等を設けることを定めている。

第2節 学習指導要領の理念

1.学習指導要領の改訂経緯

生産年齢人口の減少,グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により,社会構造や雇用環境は大きく,また急速に変化しており,予測が困難な時代となっている。こうした変化の一つとして,人工知能(AI)の飛躍的な進化があり,雇用の在り方や学校において獲得する知識の意味にも大きな変化をもたらすのではないかとの予測も示されている。

このような時代にあって,学校教育には,子供たちが様々な変化に積極的に向き合い,他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと,複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められている。

子供たちを取り巻く環境の変化により学校が抱える課題も複雑化・困難化する中で,これまでどおり学校の工夫だけにその実現を委ねることは困難になってきている状況を踏まえ,平成26 年11 月には,文部科学大臣から新しい時代にふさわしい学習指導要領等の在り方について中央教育審議会に諮問が行われ,中央教育審議会は平成28年12 月21 日に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(以下「平成28 年中央教育審議会答申」という。)を示した。

これを踏まえ,平成29 年3 月31 日に学校教育法施行規則を改正するとともに,幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領を公示した。また,同年4 月に特別支援学校小学部・中学部,平成30 年3 月に高等学校,平成31 年2 月に特別支援学校高等部の学習指導要領をそれぞれ公示した。

2.学習指導要領の理念

平成28 年中央教育審議会答申を踏まえた学習指導要領の改訂は,次の基本方針に基づき行われた。

① 今回の改訂の基本的な考え方

ア 教育基本法,学校教育法などを踏まえ,これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積を生かし,子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することを目指す。その際,子供たちに求められる資質・能力とは何かを社会と共有し,連携する「社会に開かれた教育課程」を重視すること。

イ 知識及び技能の習得と思考力,判断力,表現力等の育成のバランスを重視する平成20 年改訂の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で,知識の理解の質を更に高め,確かな学力を育成すること。

ウ 先行する特別教科化など道徳教育の充実や体験活動の重視,体育・健康に関する指導の充実により,豊かな心や健やかな体を育成すること。

② 育成を目指す資質・能力の明確化

平成28 年中央教育審議会答申においては,「生きる力」をより具体化し,教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力を,ア「何を理解しているか,何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」,イ「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」,ウ「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」の三つの柱に整理するとともに,各教科等の目標や内容についても,この三つの柱に基づく再整理を図るよう提言がなされた。

今回の改訂では,知・徳・体にわたる「生きる力」を子供たちに育むために「何のために学ぶのか」という各教科等を学ぶ意義を共有しながら,授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していくことができるようにするため,全ての教科等の目標及び内容を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で再整理した。

③「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進

子供たちが,学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて深く理解し,これからの時代に求められる資質・能力を身に付け,生涯にわたって能動的に学び続けることができるようにするためには,これまでの学校教育の蓄積を生かし,学習の質を一層高める授業改善の取組を活性化していくことが必要であり,我が国の優れた教育実践に見られる普遍的な視点である「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善(アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)を推進することが求められる。

今回の改訂では「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進める際の指導上の配慮事項を総則に記載するとともに,各教科等の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」において,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の育成に向けて,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進めることを示した。

④各学校におけるカリキュラム・マネジメントの推進

各学校においては,教科等の目標や内容を見通し,特に学習の基盤となる資質・能力(言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。以下同じ。),問題発見・解決能力等)や現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成のためには,教科等横断的な学習を充実することや,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して行うことが求められる。これらの取組の実現のためには,学校全体として,児童生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育内容や時間の配分,必要な人的・物的体制の確保,教育課程の実施状況に基づく改善などを通して,教育活動の質を向上させ,学習の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントに努めることが求められる。

このため総則において,「児童や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと,教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マネジメント」という。)に努める」ことについて新たに示した。

⑤ 教育内容の主な改善事項

このほか,言語能力の確実な育成,理数教育の充実,伝統や文化に関する教育の充実,体験活動の充実,外国語教育の充実などについて総則や各教科等において,その特質に応じて内容やその取扱いの充実を図った。

第3節 学習指導要領における教育の情報化の位置付け

1.学習指導要領における教育の情報化

平成 28 年中央教育審議会答申においては,「言語能力」等と同様に「教科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される資質・能力」の一つとして「情報活用能力」を掲げ,「教育課程全体を見渡して組織的に取り組み,確実に育んでいくことができるようにすることが重要である」とし,学習指導要領等に反映していくことが提言された。

これらを踏まえ,小・中・高等学校の学習指導要領において,「児童・生徒の発達の段階を考慮し,情報活用能力(情報モラルを含む。)等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かし,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図る」こととされた。

また,「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」のための各教科等の指導に当たっての配慮事項として,情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要なICT環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ることとされ,情報教育及び教科等の指導におけるICT 活用について充実が図られている。

さらに,児童の発達の支援の観点から,指導方法や指導体制の工夫改善により「個に応じた指導の充実」を図ることとし,その際に情報手段等の活用を図ることとしている。

また,特別支援学校(小・中・高等部)の学習指導要領においても同様に,「児童・生徒の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を考慮し,情報活用能力(情報モラルを含む。)等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かし,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図る」こととされるとともに,ICT 環境の整備及びそれらを適切に活用した学習活動の充実,個に応じた指導の充実のための情報手段の活用を図ることとされ,情報教育及びICT 活用について充実が図られた。

こうした考え方に基づいた,学習指導要領における情報教育及び教科等の指導におけるICT 活用の概要は以下のとおりである。

なお,巻末に学習指導要領における教育の情報化に関する主な記述について整理している。

(1)小学校

  • 「総則」において,情報活用能力の育成を図るため,「コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図る」こと,また,「各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」とした。
    あわせて,「児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得する」及び「児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける」ための学習活動を,各教科等の特質に応じて,計画的に実施することとした。
    なお,プログラミングを体験する学習活動については,算数科,理科,総合的な学習の時間において例示がされている。

(2)中学校

  • 「総則」において,情報活用能力の育成を図るため,「コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図る」こと,また,「各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」とした。
  • 小学校でプログラミング教育が必修化されたことなどを踏まえ,技術・家庭科(技術分野)「情報の技術」において双方向性のあるコンテンツのプログラミングが追加されるなど内容の充実が図られ,「生活や社会を支える情報の技術」「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」「計測・制御のプログラミングによる問題の解決」「社会の発展と情報技術」を全ての生徒に履修させることとした。

(3)高等学校

  • 「総則」において,情報活用能力の育成を図るため,「コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図る」こと,また,「各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」とした。
  • 共通教科情報科について,生徒の卒業後の進路等を問わず,情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力の育成が一層重要となってきていることから「社会と情報」及び「情報の科学」の2科目からの選択必履修を改め,共通必履修科目「情報Ⅰ」を設けるとともに,「情報Ⅰ」の発展的な選択科目として「情報Ⅱ」を設けた。
  • 専門教科情報科について,知識基盤社会の到来,情報社会の進展,高度な情報技術を持つIT 人材の需要増大に対応する観点から,従前の13 科目を「情報産業と社会」「課題研究」「情報の表現と管理」「情報テクノロジー」「情報セキュリティ」「情報システムのプログラミング」「ネットワークシステム」「データベース」「情報デザイン」「コンテンツの制作と発信」「メディアとサービス」「情報実習」といった12科目に改めた。

(4)特別支援学校

  • 小・中・高等部の「総則」において,情報活用能力の育成を図るため,「コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図る」こと,また,「各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」とした。あわせて,小学部においては「児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得する」及び「児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける」ための学習活動を,各教科等の特質に応じて,計画的に実施することとした。
  • 知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校の中学部の職業・家庭科について,職業生活でコンピュータ等の情報機器に触れることなどに関わる学習活動を通して,「コンピュータ等の情報機器の初歩的な操作の仕方を知ること」「コンピュータ等の情報機器に触れ,体験したことなどを他者に伝えること」を身に付けることができるよう指導することとした。
  • 知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校の高等部の職業科について,職業生活で使われるコンピュータ等の情報機器を扱うことに関わる学習活動を通して,「情報セキュリティ及び情報モラルについて知るとともに,表現,記録,計算,通信等に係るコンピュータ等の情報機器について,その特性や機能を知り,操作の仕方が分かり,扱えること」及び「情報セキュリティ及び情報モラルを踏まえ,コンピュータ等の情報機器を扱い,収集した情報をまとめ,考えたことを発表すること」を身に付けることができるよう指導することとした。

第4節 特別支援教育における教育の情報化

1.特別支援教育における教育の情報化の意義

(1)一人一人の教育的ニーズと必要な支援

コンピュータや情報通信ネットワークなどのICT は,特別な支援を必要とする児童生徒に対して,その障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じて活用することにより,学習上又は生活上の困難を改善・克服させ,指導の効果を高めることができる重要な手段である。このような情報化に対応した特別支援教育を考えるに当たっては,個々の児童生徒が,学習を進める上でどのような困難があり,どのような支援を行えばその困難を軽減できるか,という視点から考えることが大切である。

(2)特別な支援を必要とする児童生徒にとっての情報教育の意義と課題

平成25 年6 月の国会において「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる障害者差別解消法)が成立した。また,同年文部科学省の設置した「障害のある児童生徒の教材の充実に関する検討会」より「障害のある児童生徒の教材の充実について 報告」(平成25 年8 月28 日)が出された。これらは特別な支援を必要とする児童生徒にとっての情報教育を保障するためのさまざまな条件整備の1 つである。

「障害のある児童生徒の教材の充実について 報告」では障害のある児童生徒が使用する教材等の整備充実の重要性が指摘され,特にICT を活用した教材や支援機器の効果的な活用が求められている。適切な教材の活用や彼らの認知特性に合った支援機器等を活用することで,学びにくさを補い,本人の力を高めるためにICT を活用することの重要性を述べている。

情報化の推進は,特別な支援を必要とする児童生徒の学習上または生活上の困難や,社会生活の範囲が限られることを補い,学校や自宅等で様々な情報を収集・共有できるという,大きな社会的意義をもっている。また,インターネットをはじめとするネットワークの世界は,参加する者の国籍,性別,障害の有無を問わない開かれた世界であり,そこに参加していくことは,障害のある人の積極的な社会参加の新たな形態の一つということもできる。また,ICT を活用することは,新たな表現手段を可能にする。例えば,海外のIT 企業では障害者を雇用しているが,それは単に福祉のためだけでなく、健常者では発揮できない力を示したり,多様な感性を提案することで,障害の無い人では気づきにくい誰にでも使いやすい製品を作ったりすることになる。そのため,社会の情報化が進展していく中で,児童生徒が情報を主体的かつ容易に活用できるようにしたり,情報モラルを身に付けたりすることが一層重要になっている。

このような情報活用能力を育成するため,特別支援学校小学部・中学部学習指導要領においては,「情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習の充実を図ること。また,各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。」(第1章総則第4節の1の⑶)と規定されている。これは,小・中学校における指導と同様のものであり,障害の有無に左右されるものではないため,第4 章で示している活用例を参考に指導の工夫を行うことが必要である。

一方,支援を必要としている人々は,その障害の状態等により情報の収集,処理,表現及び発信などに困難を伴うことが多く,前述の情報社会の恩恵を十分に享受するためには,個々の実態に応じた情報活用能力の習得が特に求められる。こうした意味では,個々の障害の種類や程度等に対応した情報機器は,特別な支援を必要としている児童生徒の大きな助けになる。しかしながら,コンピュータをはじめとする現在の情報機器が必ずしも全ての人々に使いやすい仕様になっているわけではない。そこで,個々の身体機能や認知機能に応じて,きめ細かな技術的支援方策(アシスティブ・テクノロジー:Assistive Technology)を講じなければならず,そのための研究開発や,様々な事例をもとにしたカリキュラムの研究が期待される。

2.アシスティブ・テクノロジーの意味

障害による物理的な操作上の困難や障壁(バリア)を,機器を工夫することによって支援しようという考え方が,アクセシビリティであり,それを可能とするのがアシスティブ・テクノロジーである。これは障害のために実現できなかったこと(Disability)をできるように支援する(Assist)ということであり,そのための技術(Technology)を指している。そして,これらの技術的支援方策を充実することによって,結果的にバリアフリーの状態を実現しようということでもある。

例えば,障害のある成人の場合は,現在使用しているあるいは使用したい機器等の利便性を高めるようアシスティブ・テクノロジーを活用する。一方,学校教育では,個々の児童生徒の成長や発達をも視野に入れて,短期的・長期的な目標を設定して指導することとなる。したがって,成人と同様に使用する機器等の利便性を高めるという視点と今後必要となる機器等の活用に関する知識,技能,態度及び習慣などを育てていくという視点も重要となる。アシスティブ・テクノロジーは,個々の児童生徒の指導目標や指導内容を記した個別の指導計画に沿って活用されることになる。そしてその目的は,単なる機能の代替にとどまらず,教科指導なども含めた様々な学習を行う上での技術的支援方策ということになる。よって,より個別性が高く,また児童生徒の成長や発達に応じて絶えずきめ細かな調整(フィッティング)が必要になる。例えば,肢体不自由のある児童生徒が車いすを使用する場合,ただ単に座れれば良いわけではなく,体の状態に応じたクッションや座面の高さなどの調整が必要となる。加えて,年齢の進行や障害の状態に応じて適宜調整をする必要がある。情報機器についても同様に,一度調整した内容がそのまま利用し続けられるわけではなく,学習内容などに応じた調整が必要となる。その際,大切なことは,本人の力で必要な技術についての知識と技能を身に付けさせることを最終的な目標に適用することが肝要である。

このように,支援機器と技術は,障害のある児童生徒の教育において不可欠なものとなっている。最近は,情報機器の発達により,多様なニーズに応じた機器が開発され,利用されつつある。今後はますますこうした機器による支援方策に期待が集まり,利用も進むと考えられるが,そのためには更なる研究開発と,サポート体制の整備が望まれる。そのためにも,児童生徒の希望を踏まえつつ,メーカーとリハビリテーション工学の専門家,地域の特別支援教育センター等の関係機関と学校,そして保護者との連携と協力が求められる。

第5節 教育におけるICT活用の特性・強み及びその効果

「2020 年代に向けた教育の情報化に関する懇談会 」最終まとめ(平成28 年7 月28 日)によると,教科等の指導におけるICT 活用の特性・強みは,

①多様で大量の情報を収集,整理・分析,まとめ,表現することなどができ,カスタマイズが容易であること

②時間や空間を問わずに,音声・画像・データ等を蓄積・送受信でき,時間的・空間的制約を超えること

③距離に関わりなく相互に情報の発信・受信のやりとりができるという,双方向性を有すること

といった3 つに整理されるが,この特性・強みにより,①については文書の編集,表・グラフの作成,プレゼンテーション,調べ学習,試行の繰り返し,情報共有を,②については思考の可視化,学習過程の記録,ドリル学習を,③については瞬時の共有,遠隔授業,メール送受信等を可能としている。このようなICT の特性・強みを,主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善につなげることも期待される。

さらに,教科等に関する個別の知識や技能は,問題を発見し,その問題を定義し解決の方向性を決定し,解決方法を探して計画を立て,結果を予測しながら実行し,プロセスを振り返って次の問題発見・解決につなげていくことや,情報を他者と共有しながら,対話や議論を通じて互いの多様な考え方の共通点や相違点を理解し,相手の考えに共感したり多様な考えを統合したりして,協力しながら問題を解決していくことといった学習経験の中で定着し,既存の知識や技能と関連付けられ体系化されながら身についていくことが想定されている。このような学習過程において,情報収集し,試行の繰り返しをして整理・分析し,情報共有を図り,表現をするといったあらゆる学習場面において,ICT 活用の特性・強みを生かすことが期待される。

教科等の指導におけるICT 活用の効果については,以前より効果検証の調査研究が行われてきている。例えば,「ICT を活用した教育効果の検証方法の開発 成果報告書」(平成27 年3 月文部科学省)では,実証校7 校で,1 人1 台のタブレット型の学習者用コンピュータ等を活用した場合の効果を検証している。この調査報告書では,タブレット型の学習者用コンピュータを活用した場合と活用しない場合で,各教科の客観テストの結果を比較したところ,タブレット型の学習者用コンピュータを活用した場合の方が総得点が高いという調査結果となっている。

なお,同調査研究では,児童生徒を対象としたICT 活用スキルに関する意識調査を行っており,実証事業実施後には,ICT 活用スキルが向上し,コンピュータの基本的な操作に関する技能等が身についたという結果となっている。小学校学習指導要領の総則においては,各教科等の特質に応じて,「児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動」を実施することとしているが,このように児童生徒がICT 機器を日常的に活用する機会を設けることにより,情報手段の基本的な操作を習得することにつながる効果も期待される。

参照

第1章 社会的背景の変化と教育の情報化

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