現代医学は目覚ましい進歩を遂げましたが、今なお人類にとって「がん」は深刻な脅威であり続けています。数多くの治療法が開発される一方で、その効果が及ばず、再発を繰り返し、最終的に命を奪う「難治性がん」が存在することもまた、厳しい現実です。その代表例として挙げられるのが、悪性神経膠腫(あくせいしんけいこうしゅ)、特にその中でも最も悪性度が高い膠芽腫(こうがしゅ)です 1。このがんは脳内に深く浸潤するように広がり、手術で完全に取り除くことが極めて困難です。放射線治療や化学療法を駆使しても、多くの場合、再発は避けられず、その予後は極めて不良とされています 3。このような有効な治療選択肢が限られたがんとの戦いにおいて、医療現場は常に革新的な治療法の登場を待ち望んでいます。
そのような状況下、今、新たな動きが加速しています。それは、がんを「見る」ことと「攻撃する」ことを一体化させるという新しい治療戦略です。この戦略は「診断(Diagnostics)」と「治療(Therapy)」という二つの言葉を組み合わせ、「サーノスティクス(Theranostics)」などと呼ばれています 5。このアプローチは、まず特殊な薬剤を使ってがん細胞だけを正確に画像で捉え、その位置と広がりを「見える化」します。そして、その同じ薬剤が、今度は治療用の放射線を放出し、標的としたがん細胞だけを内側から破壊する、というものです。この概念は、がん治療をより個別化し、効果を最大化すると同時に、正常な細胞へのダメージを最小限に抑える可能性を秘めています 7。
この治療法を、研究室の構想から現実の医療現場へと届けようと挑戦しているのが、本記事の主役であるリンクメッド株式会社です 8。2022年に設立されたこの日本のスタートアップ企業は、放射性同位体という特殊な物質を用いた「見える」がん治療薬の開発に特化しています。そして最近、同社がシリーズBラウンドで総額20.5億円という大規模な資金調達を達成したというニュースは、この分野への期待の高さを物語っています。この資金調達は単なる事業拡大のための資金確保にとどまりません。それは、悪性神経膠腫に立ち向かうための強力な治療法の開発を加速させ、一人でも多くの患者に希望を届けるための重要な一歩です。
Table of Contents
サーノスティクスとは何か ― 個別化医療の最前線
がん治療の歴史は、より正確に、より効果的にがん細胞だけを狙い撃つための歴史でした。その最先端に位置するのが「サーノスティクス」という概念です。ここでは、まずこの革新的なアプローチがどのようなものであり、なぜ今、これほどまでに注目を集めているのかを解き明かしていきます。
サーノスティクスの基本原理
サーノスティクスとは、前述の通り「診断(Diagnostics)」と「治療(Therapy)」を融合させた医療アプローチです 5。その基本原理は、特定の分子標的に結合する能力を持つ薬剤をプラットフォームとして利用することにあります。このプラットフォームには、二つの役割が与えられています。一つは、画像診断のための「目印」となる放射性同位体を搭載し、体内のどこにがん細胞が存在するかを正確に可視化する役割です。もう一つは、がん細胞を破壊するための「弾頭」となる治療用の放射性同位体を搭載し、標的細胞に直接、治療効果を届ける役割です 9。
このアプローチの最大の利点は、「治療前に効果を予測できる」という点にあります。まず診断用の薬剤を投与し、PET(陽電子放出断層撮影)などの画像診断装置で撮影します。その結果、薬剤ががん細胞に特異的に集積していることが確認できた患者さんだけを、治療の対象とすることができるのです。これは「治療するものを見る(See what you treat)」から「見えるものを治療する(Treat what you see)」への転換であり、効果の期待できない患者さんに無用な治療を行い、副作用のリスクに晒すことを避けることができます。まさに、個別化医療(Personalized Medicine)を究極の形で実現する技術と言えるでしょう 11。
サーノスティクス市場の急成長を支える要因
サーノスティクス、特に放射性医薬品を用いたこの分野は、現在、世界的に急成長を遂げています。市場調査によれば、その市場規模は年平均成長率(CAGR)で13%から24%という極めて高い成長が見込まれており、大きな経済的機会を生み出しています 6。この急成長の背景には、いくつかの強力な推進要因が存在します。
第一に、世界的ながん患者数の増加です。高齢化の進展やライフスタイルの変化に伴い、がんの罹患率は上昇傾向にあります。国際がん研究機関の推計では、2040年には新規がん患者数が年間2,750万人に達すると予測されており、より効果的で安全な新しい治療法への需要がこれまで以上に高まっています 6。
第二に、個別化医療への強い要求です。従来の「ワンサイズ・フィットオール(one-size-fits-all)」型のがん治療は、患者さんによっては効果がなかったり、重い副作用を引き起こしたりすることがありました。遺伝子情報やがん細胞の特性に基づいて個々の患者さんに最適な治療法を選択する個別化医療の流れは、今や主流となりつつあります。サーノスティクスは、この個別化医療のニーズに完璧に応えるアプローチとして期待されています 9。
第三に、既存治療法の限界です。化学療法や従来の放射線治療は、長年の使用によって薬剤耐性を持つがん細胞が出現するという課題に直面しています 14。サーノスティクスは、これらとは全く異なる作用機序でがん細胞を攻撃するため、既存の治療法が効かなくなったがんに対しても効果を発揮する可能性があります 10。
そして第四に、経済的な必然性です。新しい医薬品を一つ開発するには、莫大な費用と長い年月がかかり、その成功確率は決して高くありません。この創薬におけるコストとリスクの増大は、製薬業界にとって深刻な課題です 14。サーノスティクスは、開発の初期段階で治療効果が期待できる患者集団を特定できるため、臨床試験の成功確率を高め、開発全体の効率を劇的に改善する可能性を秘めています。これは単に医学的な進歩であるだけでなく、製薬ビジネスの持続可能性を高めるための経済合理的な選択でもあるのです。この点が、多くの大手製薬企業がこの分野に巨額の投資を行っている大きな理由の一つです。
グローバル市場の動向と主要プレイヤー
サーノスティクスおよび放射性医薬品の市場は、すでに多くのグローバル企業がしのぎを削る競争の激しい分野となっており、製薬企業のほか、医療機器や医薬品流通の大手もこの分野に深く関与しています 6。
市場の構造を見ると、現在は診断用放射性医薬品が市場の過半を占めています。これは、PETやSPECTといった核医学検査が画像診断法として広く普及しているためです 22。しかし、成長の勢いという点では、治療用放射性医薬品の分野が診断用を上回っています 22。これは、まさに治療薬の登場が市場の構造を「診断」中心から「診断と治療の融合」へとシフトさせていることを示しています。リンクメッドが、まさにこの最も成長著しい治療用放射性医薬品の分野に焦点を当てていることは、同社の戦略的な先見の明を示していると言えるでしょう。リンクメッドは、この巨大で活気あるグローバル市場において、日本のスタートアップとして挑戦しているのです。
同位体「銅-64」の科学
サーノスティクスという革新的な治療戦略を実現するためには、その核となる「放射性同位体」の選択が極めて重要になります。リンクメッドがその技術の心臓部に据えたのが、「銅-64(64Cu)」という放射性同位体です。ここでは、64Cuが秘めている可能性について、その科学的な特性を詳しく見ていきましょう。
64Cuの三つの顔
64Cuが他の多くの放射性同位体と一線を画す最大の理由は、そのユニークな「崩壊様式」にあります。一つの64Cu原子は、崩壊する際に3種類もの異なる放射線を放出する能力を持っています。これは、診断と治療という二つの目的を一つの原子で同時に達成できることを意味します 23。
第一の顔は、「診断」のための陽電子(ポジトロン)です。64Cuが崩壊する際、約18%の確率で陽電子を放出します 26。この陽電子は、体内の電子と衝突して消滅し、その際に正反対の方向に一対のガンマ線を放出します。このガンマ線をPET(陽電子放出断層撮影)スキャナで捉えることで、
64Cuを搭載した薬剤が体内のどこに、どれだけ集まっているかを三次元画像として正確に描き出すことができるのです 24。これにより、医師は治療前にがんの存在を確認し、治療効果を画像で追跡することが可能になります。
第二の顔は、「治療」のためのベータ線です。64Cuは崩壊の約38%でベータ線を放出します 26。ベータ線は電子の流れであり、体内を数ミリメートル進むことができます。この性質により、
64Cuを取り込んだがん細胞だけでなく、その周囲にあるがん細胞にもダメージを与える「クロスファイア効果」が期待できます 24。これにより、薬剤が届かなかったがん細胞まで攻撃範囲に収めることが可能になります。
そして第三の顔が、極めて強力な治療効果を持つオージェ電子(Auger electron)です。64Cuは電子捕獲(Electron Capture)という崩壊も起こし、その過程で複数のオージェ電子を放出します 25。オージェ電子はエネルギーが非常に低く、その飛程(飛ぶ距離)は数ナノメートルから数マイクロメートルと極めて短いのが特徴です 24。しかし、その短い距離にエネルギーが集中するため、DNAのような細胞の枢要な分子のすぐ近くで放出されると、極めて複雑で修復困難な損傷(特に二重鎖切断)を引き起こします 1。これは、がん細胞にとって致命的な一撃となり、アルファ線や重粒子線治療にも匹敵する高い殺傷効果が期待できるとされています 24。
このように、64CuはPETによる「偵察能力」、ベータ線による「範囲攻撃能力」、そしてオージェ電子による「精密攻撃能力」という三つの顔を併せ持つ、まさにサーノスティクスのための理想的な同位体なのです。
「適度な」半減期がもたらす戦略的優位性
放射性医薬品を開発する上で、放射性同位体の「半減期(放射能が半分になるまでの時間)」は決定的に重要です。64Cuの半減期は約12.7時間です 24。この時間は、短すぎず、長すぎない、絶妙な長さであり、これが64Cuに大きな戦略的優位性をもたらしています。
もし半減期が短すぎると(例えば、PETでよく使われるフッ素-18の約110分)、医薬品を製造してから患者さんに投与するまでの時間的な制約が非常に厳しくなります。特に、抗体のような大きな分子に標識する場合、薬剤が体内でがん細胞に到達するまでに時間がかかるため、半減期が短いと同位体が途中で崩壊してしまい、十分な効果が得られません 25。
一方で、半減期が長すぎると、治療が終わった後も長期間にわたって患者さんの体内に放射線が残り続けることになり、不必要な被ばくにつながる可能性があります。
その点、64Cuの12.7時間という半減期は、製造拠点(サイクロトロン施設)で薬剤を合成し、厳格な品質管理を行い、全国の病院へ輸送するための十分な時間的余裕を確保できます 28。同時に、抗体のようなゆっくりと動く分子に標識しても、がん細胞に到達するまで十分に放射能を維持できます。そして治療後は、数日もすれば放射能がほとんど消失するため、安全性も高いと言えます。この「適度な」半減期こそが、64CuをATSMのような小さな分子から、抗体やペプチドといった大きな分子まで、様々な種類の標的分子と組み合わせることができる万能な「プラットフォーム同位体」たらしめているのです。
64Cuの製造とサプライチェーンの重要性
これほど優れた特性を持つ64Cuですが、その製造は簡単ではありません。64Cuは、医療用サイクロトロンという大型の加速器を用いて、安定同位体であるニッケル-64のターゲットに陽子ビームを照射することで人工的に作り出されます26。
このプロセスにはいくつかの課題があります。まず、原料となる64Niは濃縮された高価な物質であるため、コストが高くなります 26。また、高純度の64Cuを安定的に製造するには、高度な技術とノウハウ、そして厳格な品質管理(cGMP:current Good Manufacturing Practice)が求められます 27。
近年、放射性医薬品市場の急拡大に伴い、世界的に医療用放射性同位体の供給不足が深刻な問題となっています 21。多くの医療機関が特定の供給元に依存しているため、製造トラブルが起きると、即座に医薬品の供給が止まってしまうという脆弱性を抱えています。
このような背景を考えると、リンクメッドが自社で64Cuの製造工場を建設する計画を進めていることは、極めて重要な戦略的判断です。自社で製造能力を持つことは、第一に、主力製品である64Cu-ATSMの安定供給を確実なものにします。第二に、外部の供給状況に左右されることなく、自社のパイプライン開発を計画的に進めることを可能にします。そして第三に、将来的には64Cuを他の製薬企業や研究機関に供給する創薬支援プラットフォーム事業へと発展させる道も開かれます 35。
64Cuの製造という上流工程を自ら押さえることは、リンクメッドが単なる医薬品開発企業ではなく、放射性医薬品分野におけるインフラ企業としての側面も持つことを意味しており、その事業の安定性と将来性を大きく高める一手なのです。
物理的特性 | 値 | 意義 |
---|---|---|
半減期 | 12.7時間 24 | 製造・輸送・品質管理に十分な時間を確保しつつ、患者の被ばくを低減できる。 |
崩壊様式 | ||
陽電子放出 | 17.8% 26 | PETによる画像診断を可能にする。 |
ベータ線放出 | 38.5% 25 | がん細胞およびその周辺組織への治療効果をもたらす。 |
電子捕獲 (EC) | 43.7% 26 | オージェ電子の放出を伴い、細胞レベルでの高精度な治療を可能にする。 |
放出エネルギー | ||
陽電子 (最大) | 0.653 MeV 26 | 高解像度のPET画像取得に適している。 |
ベータ線 (最大) | 0.579 MeV 26 | 数ミリメートルの飛程で局所的な治療効果を発揮する。 |
オージェ電子 | keVオーダー 29 | ナノメートル単位の極短飛程でDNAに致死的な損傷を与える。 |
製造方法 | 医療用サイクロトロンによる製造が必要。安定供給体制の構築が鍵となる。 |
「64Cu-ATSM」の作用機序
64Cuという強力な放射性同位体を、いかにしてがん細胞だけに届け、正常な細胞には影響を与えないようにするか。この難題を解決するのが、64Cuとペアを組む「標的分子」です。リンクメッドの主力開発品である「64Cu-ATSM」では、ATSMという分子がその重要な役割を担っています。ここでは、64Cu-ATSMがどのようにしてがん細胞を見つけ出し、破壊するのか、その巧妙な作用メカニズムを解き明かします。
標的分子ATSM:低酸素環境へのナビゲーター
ATSM(diacetyl-bis(N4-methylthiosemicarbazone))は、銅と結合してCu-ATSMという安定な錯体を形成する分子です。このCu-ATSM錯体は、電荷を持たず、脂質に溶けやすい(親油性)という性質を持っています 36。この性質のおかげで、Cu-ATSMは細胞膜を自由に通過することができ、注射されると血流に乗って全身のあらゆる細胞、つまり正常な細胞とがん細胞の両方に、区別なく入り込んでいきます。
ここまでの段階では、Cu-ATSMに特異性はありません。しかし、その真価は細胞の中に入ってから発揮されます。Cu-ATSMの運命を決定づける鍵、それは細胞内の「酸素濃度」です。
「低酸素トラップ」:がんの弱点を突く巧妙な仕組み
がん組織、特に急速に増殖する悪性度の高いがんの内部は、血管の構造が未熟で無秩序なため、血液の供給が追いつかず、慢性的な酸素不足の状態に陥っています。この状態を「低酸素(Hypoxia)」と呼びます 37。この低酸素環境は、がん細胞が放射線治療や化学療法に対して抵抗性を持つようになる主要な原因の一つであり、がんの悪性度や転移能を高める要因とされています 39。つまり、低酸素はがんの「強み」であり、治療における大きな障害でした。
Cu-ATSMは、このがんの「強み」を逆手に取り、それを致命的な「弱点」へと変える驚くべき仕組みを持っています。
- 正常な細胞(十分な酸素がある環境)では: 細胞内に入ったCu-ATSM錯体は、安定した状態を保ったままです。特別な反応は起こらず、やがて細胞膜を再び通過して細胞の外へと出ていき、血流によって運び去られます。そのため、正常な細胞にはほとんど蓄積しません 36。
- がん細胞(低酸素環境)では: 細胞内が低酸素状態にあると、細胞内の還元的な環境がCu-ATSM錯体に作用します。具体的には、錯体の中心にある安定な二価の銅イオン(\text{Cu}^{2+})が、細胞内の還元酵素などによって電子を受け取り、不安定な一価の銅イオン(\text{Cu}^{1+})へと還元されます 36。この一価の銅イオンは
ATSM分子との結合力が弱く、錯体はすぐに分解してしまいます。その結果、ATSM分子から切り離された64Cu原子が、細胞内に取り残されることになるのです。この一連の反応は不可逆的であり、一度トラップされた64Cuは細胞の外に出ることができません。
この「低酸素トラップ」メカニズムにより、64Cu-ATSMは低酸素状態のがん細胞に選択的に集積し、時間の経過とともに高濃度に蓄積していきます。これまで治療の大きな障壁であった「低酸素」という特性そのものを、薬剤を起動させるための「スイッチ」として利用する。このエレガントな作用機序こそが、64Cu-ATSMの特異性と有効性の根幹をなしているのです。
「ワンツーパンチ」による治療効果
低酸素のがん細胞内に選択的に閉じ込められた64Cuは、そこから放射線を放出し、治療効果を発揮し始めます。ここで、64Cuが持つ二つの治療用放射線、ベータ線とオージェ電子が、強力な「ワンツーパンチ」としてがん細胞を襲います。
第一撃は、比較的飛距離の長いベータ線です。ベータ線は数ミリメートルの範囲にエネルギーを放出するため、64Cuが蓄積した細胞だけでなく、その周囲にある、わずかながら薬剤を取り込まなかったがん細胞にもダメージを与えることができます 24。これにより、腫瘍全体に対して均一な治療効果をもたらすことが期待されます。
そして、とどめの一撃となるのが、至近距離で絶大な威力を発揮するオージェ電子です。ナノメートル単位の極めて短い飛程を持つオージェ電子は、そのエネルギーを細胞核内のDNAのすぐそばで爆発的に放出します 29。これにより、修復が極めて困難とされるDNAの二重鎖切断が効率的に引き起こされ、がん細胞をアポトーシス(プログラムされた細胞死)へと導きます 1。
このように、ベータ線による「面」での攻撃と、オージェ電子による「点」での精密攻撃を組み合わせることで、64Cu-ATSMは低酸素で治療抵抗性のがん細胞を内側から効果的に破壊することができるのです 28。診断によって標的を正確に捉え、がんの特性を利用して選択的に集積し、そして二種類の放射線で確実に仕留める。
64Cu-ATSMは、まさに精密誘導兵器と呼ぶにふさわしい作用機序を備えた、次世代のがん治療薬と言えるでしょう。
悪性神経膠腫との闘い ― 64Cu-ATSMの臨床的意義
いかに優れた作用機序を持つ医薬品であっても、その真価は臨床の場で患者を救うことによってのみ証明されます。リンクメッドが開発する64Cu-ATSMが最初の標的として挑むのは、数あるがんの中でも最も治療が困難とされる疾患の一つ、悪性神経膠腫です。ここでは、この難治性のがんがどのようなものであるか、そして64Cu-ATSMが臨床試験でどのような希望の光を示したのかを具体的に見ていきます。
難攻不落の敵:悪性神経膠腫
悪性神経膠腫は、脳や脊髄を構成する神経膠細胞(グリア細胞)から発生する悪性腫瘍の総称です 1。その中でも最も頻度が高く、悪性度も最高の「グレード4」に分類されるのが膠芽腫(こうがしゅ)です。膠芽腫は、脳組織にしみ込むように広がっていく(浸潤性)ため、手術で腫瘍を完全に取り除くことはほぼ不可能です 2。手術後に放射線治療と化学療法(テモゾロミドという薬剤が標準治療)を組み合わせた集学的治療を行いますが、それでも再発を免れることは難しく、その予後は極めて不良です。初発の膠芽腫患者さんの生存期間中央値は約1.5年から2年弱、5年生存率は10%にも満たないと報告されています 3。
一度再発してしまうと、有効な治療法はさらに限られます。再発膠芽腫の患者さんの1年生存率は30%から40%程度とされ、多くの患者さんが診断から短期間で命を落とすのが現状です 41。このように、既存の治療法では太刀打ちできない高い壁が存在し、革新的な治療法の開発が長年にわたって切望されてきました。悪性神経膠腫は、まさにアンメット・メディカル・ニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)の塊とも言える疾患なのです。
希望の光:第I相臨床試験の驚くべき結果
このような絶望的な状況に一石を投じたのが、64Cu-ATSMの最初の臨床試験(第I相医師主導治験、STAR-64試験、NCCH1711)の結果でした 24。この試験は、再発または治療抵抗性の悪性脳腫瘍の患者さんを対象に、64Cu-ATSMの安全性と有効性を評価するために行われました。その結果は、医療関係者に大きな期待を抱かせるものでした。
有効性について、64Cu-ATSMを投与された悪性脳腫瘍の患者さん18人のうち、14人(77.8%)が6ヶ月以上、そして12人(66.7%)が1年以上にわたって生存したのです 24。
特に注目すべきは、最も治療が難しいとされる再発膠芽腫の患者さん9人に絞ったデータです。この9人のうち5人(55.6%)が1年以上の生存を達成しました 24。前述の通り、この病状における標準的な1年生存率が30~40%であることを考えると、これは極めて有望な結果です。第I相試験は主に安全性を確認するための小規模な試験であり、この結果だけで有効性が証明されたわけではありませんが、既存の治療成績を大きく上回る可能性を示唆する強力なシグナルであることは間違いありません。この有望なデータこそが、リンクメッドが次のステップへと進む大きな原動力となりました。
治療法 | 対象患者数 | 1年生存率 | ソース |
---|---|---|---|
64Cu-ATSM (第I相試験) | 9人 | 55.6% (5人) | 24 |
標準治療 (過去のデータ) | - | 約30%~40% | 41 |
承認への最終関門:第III相臨床試験(STEP-64)
第I相試験の有望な結果を受け、64Cu-ATSMを正式な医薬品として承認を得るための最終段階となる、大規模な臨床試験が開始されました。それが、2024年6月から始まった第III相比較試験(STEP-64試験、NCCH2301)です 1。この試験は、64Cu-ATSMが日本の創薬史上、初めて悪性脳腫瘍を対象とした放射線治療薬として承認を目指す、極めて重要なマイルストーンです 24。
この試験の目的とデザインは、科学的に最も信頼性の高い方法で64Cu-ATSMの有効性を証明することにあります。
- 目的: 再発・難治性の悪性神経膠腫患者さんにおいて、64Cu-ATSMによる治療が、既存の標準治療と比較して全生存期間(Overall Survival)を統計学的に有意に延長することを示すこと 1。
- デザイン: ランダム化比較試験。参加する患者さんを無作為に二つのグループに分け、一方には64Cu-ATSMを、もう一方には「担当医が最良と判断する既存治療(Best Physician's Choice: BPC)」を行います。BPCには、現在日本で承認されているテモゾロミドやベバシズマブといった薬剤が含まれます 1。この二つのグループの生存期間を比較することで、
64Cu-ATSMの真の価値を客観的に評価します。 - 対象患者: 病理診断で悪性神経膠腫(膠芽腫、グレード3・4の星細胞腫など)と診断され、標準治療を受けた後に再発または増悪した18歳から75歳までの患者さんです 1。
この第III相試験が成功裏に終われば、リンクメッドは日本の医薬品規制当局(PMDA)に製造販売承認を申請することができます 43。悪性神経膠腫という希少かつ難治性のがんを最初のターゲットに選んだことは、一見するとリスクの高い戦略に思えるかもしれません。しかし、これは有効な治療法がほとんど存在しない「アンメット・メディカル・ニーズ」が極めて高い領域であり、もし成功すれば、画期的な新薬として迅速な審査や高い薬価が期待できる可能性があります。まさに「ハイリスク・ハイリターン」の典型的なバイオベンチャー戦略であり、第I相試験のデータが、その大きな賭けに勝つ可能性を十分に示唆しているのです。
リンクメッドの誕生 ― 国立研究所から世界へ
革新的な医薬品は、優れた科学技術だけで生まれるわけではありません。そこには、粘り強い探求心を持つ研究者の情熱と、その研究成果を社会に届けるための起業家精神が必要です。リンクメッドの物語は、まさにその二つが結実したものです。ここでは、一人の研究者の長年の歩みと、日本の科学技術政策の新しい潮流が生んだ、このユニークな企業の誕生秘話に迫ります。
創業者・吉井幸恵氏の軌跡
リンクメッドを創業し、代表取締役社長として率いるのは、理学博士の吉井幸恵氏です 7。彼女の経歴は、基礎研究から臨床応用までを一貫して見据えてきた、放射線科学研究者の王道とも言えるものです。筑波大学で博士号を取得後、福井大学高エネルギー医学研究センターでキャリアをスタートさせました 45。そして2011年、日本の放射線医学研究の総本山である独立行政法人放射線医学総合研究所(NIRS、現・国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、QST)に着任します 45。
QSTは、放射線を用いた医学研究、特にがんの診断や治療において世界をリードする研究機関です。吉井氏はここで主任研究員、主幹研究員、そして上席研究員を歴任し、10年以上にわたって放射性医薬品の研究開発に没頭しました 7。彼女が一貫して追求してきたテーマは、本記事で繰り返し述べてきた「診断と治療を同時に行える『見える』がん治療薬」の開発でした 7。
その研究の中心にあったのが、64Cuであり、特に64Cu-ATSMでした。彼女の研究履歴をたどると、2009年や2010年の時点で、すでに「放射性薬剤64Cu-ATSMによるがん幹細胞局在領域標的内照射治療に関する研究」といったテーマで国の科学研究費補助金(科研費)を獲得していることがわかります 45。これは、64Cu-ATSMのコンセプトが、一朝一夕に生まれたものではなく、吉井氏の長年にわたる地道な基礎研究と、その可能性を信じ続けた揺るぎない信念の賜物であることを物語っています。彼女は、64Cu標識抗体を用いた膵がんの診断法開発など、64Cuプラットフォームの応用範囲を広げる研究にも従事しており 48、この分野における深い専門知識と先見性を持った研究者であることがうかがえます。
国立研究所発ベンチャーという新しい形
長年の研究を経て、64Cu-ATSMはついにヒトでの臨床試験(第I相試験)へと駒を進めました。これは、日本で製造された放射性治療薬としては初めての臨床試験(治験)であり、日本の創薬史においても画期的な出来事でした 7。この重要な局面で、吉井氏は大きな決断をします。2022年7月、研究成果の社会実装を加速させるため、自らが代表となり、リンクメッド株式会社を創業したのです 8。
特筆すべきは、リンクメッドが「QST認定ベンチャー」として設立された点です 7。これは、QSTが保有する知的財産(特許など)やノウハウを活用して事業を行う企業として、QST自身が公式に認定し、支援する制度です。これは、日本の科学技術におけるイノベーション創出モデルの大きな変化を象徴しています。
かつて日本では、大学や国立研究所で生まれた優れた研究成果が、事業化されることなく「死の谷」に埋もれてしまうケースが少なくありませんでした。研究者は論文を書くことが主目的であり、ビジネスの世界とは隔絶されていることが多かったのです。しかし近年、政府は国費を投じて得られた研究成果を、経済的価値や社会的価値に転換することの重要性を強く認識するようになりました。その結果、研究者自身が起業したり、研究機関がスピンアウト・ベンチャーの設立を積極的に支援したりするエコシステムが整備されつつあります。
吉井氏が、国立研究所のトップクラスの研究者(上席研究員)という安定した地位から、リスクの高いスタートアップのCEOへと転身したこと、そしてQSTがそれを公式に後押ししたことは、まさにこの新しい潮流を体現しています。これは、価値ある科学技術を最も速く、最も効率的に患者のもとへ届けるためには、大企業や研究所の内部で開発を続けるよりも、特定の目的に特化した、機動力のあるベンチャー企業に託す方が有効であるという戦略的な判断です。リンクメッドの誕生は、単なる一企業の設立ではなく、日本の創薬エコシステムが、よりダイナミックで、より実践的なモデルへと進化しつつあることの力強い証なのです。
20.5億円の資金調達とその戦略的意味
2024年、リンクメッドはシリーズBラウンドのセカンドおよびサードクローズにおいて、総額20.5億円の資金調達を実施したことを発表しました。これにより、シリーズBラウンド全体での調達額は35.5億円、創業からの累計調達額は約47億円に達しました。この大規模な資金調達は、同社が臨床開発の極めて重要な段階に入ったことを示すと同時に、その技術と戦略に対する投資家からの強い信頼を反映しています。ここでは、今回の資金調達の内実と、その戦略的な意味合いを分析します。
投資家がもたらす「資本以上の価値」
今回の資金調達で注目すべきは、その金額もさることながら、参加した投資家の顔ぶれの多様性と質の高さです。新規株主として名を連ねたのは、慶應イノベーション・イニシアティブ、ロッテホールディングス、三井住友信託銀行、野村スパークス・インベストメント、三菱UFJライフサイエンスなど、日本の主要なプレイヤーたちです。これは単なる資金提供者の集まりではなく、それぞれがリンクメッドの成長に必要な「資本以上の価値」をもたらす戦略的シンジケート(連合)と見ることができます。
- 大学系ベンチャーキャピタル(VC): 慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)のようなトップ大学のVCが参加することは、リンクメッドの科学技術に対する学術的なお墨付きを与え、大学の研究ネットワークへのアクセスを可能にします。
- 事業会社: ロッテホールディングスの参加は特に興味深いものです。同グループのロッテバイオロジクスは、近年、ADC(抗体薬物複合体)の受託開発製造(CDMO)事業に大規模な投資を行っています 49。ADCは、抗体という標的分子に化学療法剤という「弾頭」を結合させたものであり、放射性同位体を結合させる放射性医薬品とコンセプトが非常に似ています。この投資は、ロッテグループがADCの次の潮流として放射性医薬品に注目し、将来的な事業シナジーを視野に入れた戦略的な布石であると解釈できます。
- 金融機関: 三井住友信託銀行のような大手信託銀行の出資は、長期的な視点での安定した資金供給と経営への信頼を意味します 50。数年から十年単位の開発期間を要するバイオベンチャーにとって、このような長期安定株主の存在は経営基盤を強固にします。
- 専門VC: 野村スパークスや三菱UFJライフサイエンスといった、大手金融グループ系のライフサイエンス専門VCは、豊富な業界知識、厳格なデューデリジェンス能力、そして国内外の製薬企業との広範なネットワークをもたらします。これは、将来の事業提携やライセンスアウト戦略において大きな力となります。
- 公民連携ファンド: 大阪・関西万博活性化投資事業有限責任組合のようなファンドからの出資は、リンクメッドの事業が国家的なプロジェクトとも連動していることを示し、公的な認知度や信頼性を高める効果があります。
このように、学術、事業、金融、専門知識といった異なる強みを持つ投資家たちが結集したことは、リンクメッドの経営陣が自社の成長ステージにおいてどのような支援が必要かを深く理解し、極めて洗練された資金調達戦略を実行したことを示しています。これは、同社の技術やチームだけでなく、その経営能力に対する外部からの強力な信任投票と言えるでしょう。
投資家タイプ | 投資家名 | 想定される戦略的価値 |
---|---|---|
大学系VC | 慶應イノベーション・イニシアティブ | 高度な科学技術に対する学術的な信頼性の担保、アカデミアとの連携強化。 |
事業会社 | ロッテホールディングス | 将来的な事業シナジーの可能性(特にバイオ医薬品製造分野との連携)。49 |
機関投資家 | 三井住友信託銀行 | 長期的な視点での経営安定化、金融面での強力なサポート。50 |
専門VC | 野村スパークス・インベストメント | ライフサイエンス分野における深い専門知識とネットワーク、事業開発支援。 |
専門VC | 三菱UFJライフサイエンス | 厳格な評価に基づく事業計画の妥当性の証明、製薬業界との橋渡し。 |
公民連携ファンド | 大阪・関西万博活性化投資事業有限責任組合 | 国家プロジェクトとの連携による社会的信頼性の向上、広報効果。 |
調達資金の使途:研究開発から事業基盤の構築へ
リンクメッドは、今回調達した資金を、同社の成長戦略に沿って明確な目的のために投下する計画です。その使途は、同社が研究開発段階から商業化段階へと移行するための重要なステップを網羅しています。
- 臨床開発の推進: 最も優先順位が高いのは、主力開発品LM001(64Cu-ATSM)の第III相臨床試験を完遂させることです。これは承認取得に向けた最大の関門であり、資金の大部分がここに投入されると考えられます。
- 製造体制の構築: 建設中の64Cu製造工場の稼働準備を進めます。これにより、これまで述べてきたように、原料の安定確保とサプライチェーンの自社管理という、放射性医薬品事業における生命線を確立します。
- パイプラインの拡充: LM001に続く、その他のパイプラインの研究開発を加速させると同時に、新たなパイプラインの創出にも資金を振り向けます。これは、リンクメッドが単一製品の企業ではなく、64Cuを基盤としたプラットフォーム企業として持続的に成長していくための重要な投資です 35。
- 組織体制の強化: 臨床開発、製造、薬事申請、そして将来的には営業・マーケティングといった各分野の専門人材を採用し、組織体制を強化します。研究開発中心のスタートアップから、医薬品を市場に届け、事業を運営する本格的な製薬企業へと脱皮するための基盤を固めるのです。
これらの資金使途は、目先の臨床試験成功だけでなく、その先にある事業化と持続的成長までを見据えた、極めて戦略的かつ堅実な計画と言えます。
日本の創薬エコシステムとリンクメッド
本記事では、リンクメッド株式会社を軸に、サーノスティクスという最先端の医療、64Cuという特異な放射性同位体の科学、そして悪性神経膠腫という難治性がんとの闘いを多角的に検証してきました。64Cu-ATSMという一つの薬剤候補は、基礎科学、臨床ニーズ、そして起業家精神が結実した希望の結晶です。最後に、リンクメッドがこれから直面する課題と、日本の創薬エコシステム全体に与える影響について考察します。
これから待ち受ける挑戦
20.5億円という大規模な資金調達に成功し、第III相臨床試験も順調に滑り出したリンクメッドですが、その道のりは決して平坦ではありません。医薬品として承認され、広く患者のもとに届けられるまでには、いくつかの大きなハードルを越える必要があります。
第一の課題は、製造とロジスティクスの確立です。半減期12.7時間という64Cuの特性は、医薬品の製造、品質管理、そして全国の医療機関への配送を、極めて短い時間枠の中で行う「ジャストインタイム」の供給体制を要求します 28。医薬品としての厳格な基準(cGMP)を満たす製造施設を安定的に稼働させ、放射性物質を安全かつ迅速に輸送するコールドチェーンを構築することは、科学的な発見とは全く異なる、高度なオペレーション能力が問われるものです 21。
第二の課題は、規制当局の承認です。日本国内でのPMDA(医薬品医療機器総合機構)による承認が当面の目標ですが、グローバルな展開を目指すには、米国のFDA(食品医薬品局)や欧州のEMA(欧州医薬品庁)といった海外の規制当局との厳しい交渉も乗り越えなければなりません。
第三の課題は、市場への浸透と医療従事者の教育です。たとえ承認されても、保険償還が認められなければ広く使われることはありません。また、放射性医薬品は取り扱いに専門的な知識と設備を要するため、核医学専門医、医学物理士、放射線薬剤師といった専門家を育成し、医療現場での安全な使用法を啓発していく活動が不可欠となります 52。これは、単に薬を売るのとは別次元の、医療システム全体を巻き込む取り組みです。
第四の課題は、競争環境です。64Cu-ATSMが悪性神経膠腫を対象とする領域では今のところ競合は少ないですが、放射性医薬品(ラジオサーノスティクス)というより広い分野では欧米の巨大企業がひしめいています 17。リンクメッドが競争優位を保ち続けるためには、64Cu-ATSMの成功に安住することなく、プラットフォーム技術を活かして次々と新しいパイプラインを生み出し、革新を続ける必要があります。
がん患者にとっての未来: 64Cu-ATSMが承認されれば、それは悪性神経膠腫という最も過酷ながんと闘う患者さんとその家族にとって、新たな、そして強力な希望の光となります。さらに、リンクメッドが目指すのは、ATSMという標的分子を別のもの(例えば特定のがんに結合する抗体やペプチド)に置き換えることで、64Cuプラットフォームを様々ながん治療に応用することです 35。将来的には、脳腫瘍だけでなく、膵臓がんや前立腺がんなど、多くの難治性がんに苦しむ患者に「見える」個別化治療を届ける道が開かれるかもしれません。
日本の創薬エコシステムにとっての未来: リンクメッドの成功は、日本のバイオテクノロジー業界全体にとって、極めて重要な意味を持ちます。国立研究所で生まれた世界トップレベルの科学技術が、研究者自身のリーダーシップによってスピンアウトし、国内の多様な投資家から支援を受け、グローバル市場を目指す。この「QST認定ベンチャー」というモデルケースの成功は、後に続く多くの研究者や起業家に勇気と具体的な道筋を示すことになるでしょう。それは、日本の「失われた数十年」の間に停滞が指摘されてきた創薬エコシステムが、再び世界と伍して戦える力強い存在へと変貌を遂げるための、大きな起爆剤となる可能性があります。
結論として、リンクメッドの事例は、単なる一企業のものにとどまりません。64Cu-ATSMが臨床試験の最終関門を突破し、がん治療の現場に届く日を、私たちは大きな期待をもって見守るべきでしょう。それは、がんと闘うすべての人々を照らす、新たな時代の幕開けを告げるものとなるに違いありません。
引用文献
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- 悪性脳腫瘍を対象とした 新規核酸医薬の医師主導治験を開始 ~予後が厳しい再発膠芽腫に対する新たな治療法 - 名古屋大学, https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/news/press-release/2024/02/13140000.html
- 脳腫瘍 神経膠腫(グリオーマ) | 東京女子医科大学脳神経外科, https://www.twmu.ac.jp/NIJ/column/encephaloma/glioma.html
- 神経膠腫(グリオーマ) - 脳神経外科 京都大学医学部附属病院, https://neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/patient/disease/dis08/
- ラジオサーノスティクスの世界市場レポート 2025年 - グローバルインフォメーション, https://www.gii.co.jp/report/tbrc1670879-radiotheranostics-global-market-report.html
- ラジオサーノスティックス市場規模は2030年までに206.7億ドルに達する見込み - 最新予測, https://newscast.jp/news/0391216
- 吉井 幸恵 | DBJスタートアップサポートセンター, https://ssc.jeri.or.jp/activity/yoshii_yukie/
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