ビジネス全般

医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

1.研究事業の目的・目標

【背景】

薬事行政においては、最先端の技術を活用した医薬品・医療機器・再生医療等製品等の実用化や、承認審査、市販後安全対策のほか、未承認無許可医薬品の監視業務、麻薬・覚醒剤等の薬物濫用対策、血液安全対策、医薬品販売制度等に取り組んでいる。令和元年には、国民のニーズに応える優れた医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供すると共に、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができる環境を整備するため、改正医薬品医療機器等法が公布された。この改正では①医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善、②住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し、③信頼確保のための法令遵守体制等の整備を行うこととされており、令和3年5月現在、政省令の整備等を進め改正法を段階的に施行してきたところである。一方で、令和2年初頭から新型コロナウイルス感染症が蔓延したことを受け、ICT 等新しい技術の活用も視野にいれること、国際規制調和を推進することの重要性がより一層強調され、平時のみならず緊急時にも普遍的に対応できるような薬事行政が求められているところである。

【事業目標】

医薬品・医療機器等に係る政策的課題の解決に向けて、薬事監視、血液事業、薬物乱用対策及び医薬品販売制度等を政策的に実行するために必要な規制(レギュレーション)について、科学的合理性と社会的正当性に関する根拠に基づいて整備する。

【研究のスコープ】

薬事監視、血液製剤の安全性・供給安定性の確保、薬物乱用対策及び薬剤師の資質向上等、薬事規制等の基準を整備するための根拠となる研究を行う。

【期待されるアウトプット】

薬事監視等

医薬品等の適正な流通は公衆衛生上の重要な課題となっており、医薬品等の適切な製造・品質管理、品質不良な医薬品等の取締り、不適切な広告の指導監督、医薬品等の検査・検定など薬事監視等に係る施策立案の基盤を強化する。

血液事業

血液行政は、血液製剤が人の血液を原料として製造されることから、①献血の推進、②安全性の向上、③安定供給の確保、④適正使用の推進を基本理念として掲げている。当事業で得た成果を、若年層の献血率の低下、新興・再興感染症等に対する血液製剤の安全性確保、医学的知見や医療技術の発展に伴う血液製剤の需給の変化、採血基準の再検討、医療環境に応じた適正な輸血療法の推進などの喫緊の課題解決に活用する。

薬物乱用

国内において若者を中心に大麻の乱用が増加するなど、違法薬物の流通と乱用は、依然として日本を含む世界の公衆衛生上の重大な課題となっている。当事業において、薬物乱用対策に係る施策立案の基盤の充実、薬物の迅速な分析・鑑別方法等の開発、乱用を防止する効果的な啓発方法の開発等を図る。

薬剤師・薬局制度

地域包括ケアシステムにおいて薬剤師・薬局が求められる役割を果たせるよう、多職種・多機関との連携手法の確立や、薬剤師の研修の質の向上により、薬剤師・薬局の能力・機能の向上を図る。

【期待されるアウトカム】

上記の研究成果は、医薬品の適正な流通、安全な血液製剤の安定供給、乱用薬物の取締等さらには薬局、薬剤師の質の向上につながり、総じて医薬品等による保健衛生の危害の防止が図られ、保健衛生の向上につながる。さらに改正医薬品医療機器等法は令和2年より順次施行されているところであるが、施行後5年を目途として、施行の状況を踏まえ見直すこととされており、上記の研究成果は今後の必要な措置を検討するための重要な資料となる。

2.これまでの研究成果の概要

  • 「医療用医薬品の販売に係る情報提供ガイドライン」の適切な運用
    • 「医療用医薬品の販売に係る情報提供ガイドライン」で規定する監督部門について各社での自主点検や検討を促し、適切な体制の整備を行わせるため、調査結果の速報を行った。(平成 31年度から継続中)
  • 国家検定における試験頻度の見直し
    • ワクチンの品質等のリスク評価結果等に応じた検定における試験頻度の見直しについて、試験頻度見直しの基本的な枠組み案を作成した。(令和2年度から継続中)
  • 「国際流通する偽造医薬品等の実態と対策に関する研究」
    • 脳機能向上を標ぼうする製品や美容関係の製品も含む自己使用目的の医薬品の個人輸入の実態に関するアンケート調査結果の詳細解析により、平成 20 年度の調査と比較して個人輸入が増加している傾向等が明らかになったことで今後の個人輸入に関する施策を検討する上で有用な基礎情報が得られた。(令和2年度から継続中)
  • 大麻に関する正しい知識のとりまとめと発信
    • 科学的な根拠に基づく大麻の乱用による心身への影響など、令和元年度までに研究班で収集した大麻に関する正しい知識を冊子としてまとめ、都道府県等に配布し、効果的な薬物乱用予防啓発活動が図られるよう支援した。
  • 「新たなアプローチ方法による献血推進方策と血液製剤の需要予測に資する研究」
    • NDB を用いた血液製剤の需要予測を行うとともに、効果的な献血推進策について検証を行った(平成 30 年~令和2年度)。
  • 「かかりつけ薬剤師・薬局の多機関・多職種との連携に関する調査研究」(平成 30 年~令和2年度)
    • 外来で抗がん剤治療を受けている患者を対象に、薬局と医療機関の連携の中で、抗がん剤の種類ごとのプロトコールに基づく治療薬管理を実施した結果、副作用の早期発見や医師の負担軽減につながることが示された。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

血液事業

  • 「医療環境に応じた輸血療法の実施体制のあり方に関する研究」において、輸血療法の実施に関する指針と血液製剤の使用指針を統合して、最新の知見に基づく新たな指針を作成するため、エビデンス(文献)を早急に検索・収集し、科学的根拠の重み付けを行った上で、臨床現場での推奨レベルを決定する必要がある。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

【薬事監視等】

  • 課徴金制度の導入等の医薬品等の広告規制の変化を踏まえた実態調査研究
    医薬品等の虚偽・誇大広告に対する課徴金制度について、抑止効果の評価を図り、また、医療用医薬品の情報提供について、より円滑な情報提供を図る。
  • 「プログラムの医療機器該当性に関する研究」
    SaMD(医療機器プログラム)について、新しい分野であり、国際整合性を踏まえた薬事規制の在り方の検討が求められている。海外での規制の状況を踏まえ、国内事例を収集することにより、規制の見直しに必要な参考資料を整理する。
  • 医薬品、医療機器の回収に関する研究
    医薬品、医療機器等の回収において、より効率的、効果的な制度の運用のため、クラス分類や情報提供の方策の見直しを図る。

【血液事業】

  • 新興・再興感染症に対する献血血液の安全性の確保に資する研究」において、近年報告されている新興・再興感染症に対する献血血液の安全性を確保するため、国内外における感染症の現状と輸血による病源体の伝播の情報の収集を行うとともに、その病源体の検出方法、国内での媒介生物、感染経路、病源体の特性解析等を行う。

【薬物乱用】

  • 指定薬物の指定にかかる試験方法の妥当性検証に関する研究
    危険ドラッグ等の作用の1つである幻覚作用の評価の検証を行い、指定薬物の指定のための考え方をまとめ、迅速な指定を進める。
  • 規制薬物の分析と鑑別等の手法開発に向けた研究
    今夏に取りまとめられる予定の検討会報告書を踏まえた効果的な薬物の取り締まりを行うための識別手法の検討・開発を行う。

【薬剤師・薬局制度】

  • 「対人業務の充実に向けた薬局業務の調査研究」
    薬剤師の業務に影響を与える要因を明らかにするために、薬剤師の業務を一部代替的に行う取組の活用実態、薬剤師として求められる対人業務(丁寧な服薬指導、副作用・服薬状況の医師へのフィードバック等)に関する教育の現状等の実態調査を行い、その結果を踏まえ、患者が最適な薬物療法を受けられるよう更なる対物業務(錠剤の入ったシートの取りそろえ、在庫管理等)の効率化と対人業務の充実を図る

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

薬事監視等

  • 課徴金制度が導入された際の国会の附帯決議において「課徴金制度の抑止効果の評価を行うこと。」とされており、この評価の一つとして使用する。また、「医療用医薬品の販売に係る情報提供ガイドライン」の見直し及び追加施策の必要性など臨機応変な対応につなげることができる。
  • 研究成果を踏まえ医薬品回収性制度に関する現行の通知を改正し、効率的、効果的な制度の運用を可能とする。

血液事業

  • 最新の知見に基づき輸血療法および血液製剤の使用に係る新たな指針を策定することにより、国内の安全かつ適正な輸血療法の実施体制を構築する。
  • 新興・再興感染症に対する献血血液の安全性に係る情報を収集し、その検出法等を開発することで、血液製剤の安全性を確保する。

薬物乱用

  • 危険ドラッグ等の化学物質を迅速に検出し、毒性を明らかにすることで、そのような化学物質を含む製品の流通禁止などの措置につなげ、保健衛生上の危害発生防止を図る。

薬剤師・薬局制度

  • 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、ICT 等を活用して従来とは異なる方法で薬剤師・薬局業務の実施が進んでいる。このようなニーズが高まりつつある中、各取組の安全性の検証等を行いつつ、薬剤師による ICT を活用した患者対応や医師等関係職種との連携の適切な方策を検討することで、対人業務の充実につなげ、かかりつけ薬剤師・薬局としての更なる機能発揮を図る。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

-ビジネス全般

© 2024 RWE