医薬品医療機器等

エンスプリング皮下注 [サトラリズマブ](審議結果報告書2020年6月4日)

審議結果報告書

令 和 2 年 6 月 4 日
医薬・生活衛生局医薬品審査管理課

[販売名]

エンスプリング皮下注120 mgシリンジ

[一般名]

サトラリズマブ(遺伝子組換え)

[申請者名]

中外製薬株式会社

[申請年月日]

令和元年 11 月8日

[審議結果]

令和2年5月 29 日に開催された医薬品第一部会において、本品目を承認して差し支えないとされ、薬事・食品衛生審議会薬事分科会に報告することとされた。

本品目は生物由来製品に該当し、再審査期間は 10 年、原体及び製剤はいずれも劇薬に該当するとされた。

[承認条件]
  1. 医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
  2. 国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤の使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。

審査報告書

令和 2 年 5 月 11 日
独立行政法人医薬品医療機器総合機構

承認申請のあった下記の医薬品にかかる医薬品医療機器総合機構での審査結果は、以下のとおりである。

[販売名]

エンスプリング皮下注 120 mg シリンジ

[一般名]

サトラリズマブ(遺伝子組換え)

[申請者]

中外製薬株式会社

[申請年月日]

令和元年 11 月 8 日

[剤形・含量]

1 シリンジ(1 mL)中にサトラリズマブ(遺伝子組換え)120 mg を含有する注射剤

[申請区分]

医療用医薬品(1)新有効成分含有医薬品

[特記事項]

希少疾病用医薬品(指定番号:(31 薬)第 443 号、令和元年 9 月 12 日付け薬生薬審発 0912 第 1 号)

[審査担当部]

新薬審査第三部

[審査結果]

別紙のとおり、提出された資料から、本品目の視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防に対する本剤の有効性は示され、認められたベネフィットを踏まえると安全性は許容可能と判断する。

以上、医薬品医療機器総合機構における審査の結果、本品目については、下記の承認条件を付した上で、以下の効能又は効果並びに用法及び用量で承認して差し支えないと判断した。

[効能又は効果]

視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防

[用法及び用量]

通常、成人及び小児には、サトラリズマブ(遺伝子組換え)として 1 回 120 mg を初回、2 週後、4 週後に皮下注射し、以降は 4 週間隔で皮下注射する。

[承認条件]
  1. 医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
  2. 国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤の使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。

別紙 審査報告(1)

令和 2 年 3 月 25 日

起原又は発見の経緯及び外国における使用状況に関する資料等

NMOSD は、中枢神経系の自己免疫性炎症性脱髄疾患であり、重度の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする。NMOSD の発症機序として、中枢に発現している水チャネルである AQP4 に対する自己抗体である抗 AQP4 抗体が病態に関与すると考えられている一方、抗 AQP4 抗体が陰性の NMOSD 患者も認められており、抗 AQP4 抗体以外の自己抗体が関与する可能性も考えられている(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2013; 84: 922-30、Eur J Neurol 2015; 22: 1511-18)。NMOSD の未治療の状態での年間再発回数は平均 1~1.5 回であると報告されており(Brain 2012; 135: 1834-49)、再発を繰り返すことで障害が悪化する。再発時の重症度は重度であることが多く、単回の発作で失明や車椅子生活に至ることもある。

NMOSD 患者のうち約 35%の患者では最終的に不可逆性の脊髄障害をきたし、そのうち約 25%の患者では車椅子が必要となる(多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン 2017. 医学書院; 2017)。また、抗 AQP4 抗体価が高い患者では重篤な再発をきたす傾向にある(多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン 2017. 医学書院; 2017)。

NMOSD の有病率は全世界では 10 万人あたり 0.52~4.4 人(Mult Scler 2015; 21: 845-53)、本邦では 10万人あたり 3.65 人(患者数は約 4370 人)(日本臨床 2014; 11: 1903-7)と推計されており、「視神経脊髄炎及び視神経脊髄炎関連疾患」を予定効能・効果として、本剤は希少疾病用医薬品に指定されている(指定番号:(31 薬)第 443 号)。

本剤は、中外製薬株式会社で創製された IL-6R に対するヒト化 IgG2 モノクローナル抗体である。本邦では、2010 年 11 月から臨床試験が開始され、今般申請者は、国際共同第Ⅲ相試験等により視神経脊髄炎スペクトラムに対する本剤の有効性及び安全性が確認されたとして、製造販売承認申請を行った。

海外では、米国及び欧州において 2019 年 8 月に本剤の承認申請が行われ、現在、審査中である。なお、2020 年 2 月時点において、本剤が承認されている国又は地域はない。

なお、本邦で NMOSD に対する治療薬として、エクリズマブが「視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防」を効能・効果として 2019 年 11 月に承認されている。

機構における審査の概略

有効性について

抗 AQP4 抗体陽性・陰性別の有効性について

機構は、抗 AQP4 抗体の有無により NMOSD の発症機序が異なる可能性があることから(3.R.1 参照)、抗 AQP4 抗体の陽性・陰性別での NMOSD 患者における本剤の有効性について説明するよう申請者に求めた。

申請者は、以下のように説明した。

  • IL-6 シグナル阻害により抗 AQP4 抗体陰性の患者においても有効性が期待できると考えたこと、NMOSD の治療にあたり抗 AQP4 抗体の有無によらず診断後に速やかに治療を開始することが望ましいと考えたことから、より多くの NMOSD 患者に対して治療機会を提供できるよう、国際共同第Ⅲ相試験(CTD 5.3.5.1-1: SA-307JG 試験)及び海外第Ⅲ相試験(CTD 5.3.5.1-2: SA-309JG 試験)では、抗 AQP4 抗体陽性の患者だけでなく、抗 AQP4 抗体陰性の患者も含めて臨床試験を実施した。
  • SA-307JG 試験及び SA-309JG 試験における抗 AQP4 抗体の陽性・陰性別での有効性について、抗AQP4 抗体陽性・陰性別の初回 PDR の発現状況は表 33 のとおりであり、SA-307JG 試験及び SA-309JG試験において抗 AQP4 抗体陽性の患者では本剤の有効性が認められた一方、抗 AQP4 抗体陰性の患者に対する本剤の有効性は、症例数が少ないこと及び抗 AQP4 抗体陰性の患者の臨床的多様性により結論付けられなかった。
  • また、SA-307JG 試験及び SA-309JG 試験において抗 AQP4 抗体陰性の患者において有効性の評価に影響を与えた要因を検討するため、被験者背景因子30)別の部分集団解析を実施したが、両試験における抗 AQP4 抗体陰性の患者の症例数が少なく、抗 AQP4 抗体陰性の患者における有効性の評価に影響を与えた要因を明確に示すことは困難であると考えられた(7.R.1.3 参照)。

その上で申請者は、以下の点から、本剤は抗 AQP4 抗体陰性の患者に対しても有効性が期待され、本剤が治療選択肢の一つになり得ると考えることを説明した。

  • 血中及び CSF 中 IL-6 は NMOSD の再発中に上昇することが報告されており(Int J Neurosci 2010; 120: 71-5、J Neurol 2009; 256: 2082-4、Mult Scler 2010; 16: 1443-52)、抗 AQP4 抗体及びその他の自己抗体産生の促進、NMOSD の病変発生への関与、血液脳関門の透過性亢進に伴う白血球及び自己抗体の中枢神経系への誘導(Clin Exp Neuroimmunology 2013、Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2016; 4: e311)等に関与することが報告されている。したがって、IL-6R 阻害作用を持つ本剤は、NMOSD 患者における抗 AQP4 抗体依存的及び非依存的な病態のいずれに対しても有効性が期待できる。
  • SA-307JG 試験及び SA-309JG 試験の二重盲検期間における抗 AQP4 抗体陽性・陰性別の再発時の重症 PDR の被験者割合は表 34 のとおりであり、症例数が限られることから抗 AQP4 抗体陰性の患者における本剤の有効性を明確に示すことは困難であるものの、抗 AQP4 抗体陽性の患者だけでなく抗 AQP4 抗体陰性の患者に対しても、本剤投与により再発時の重症 PDR の被験者割合が少なくなる可能性がある。

以上より、申請者は、SA-307JG 試験及び SA-309JG 試験において抗 AQP4 抗体陰性の患者における有効性は明確ではなかったものの、IL-6 が NMOSD の病態に関与すること、及び本剤投与により再発時の重症 PDR の被験者割合が低くなる可能性が示唆されたことから、抗 AQP4 抗体陰性の患者に対しても本剤の有効性が期待されると考える。

機構は、以下のように考える。

  • 抗 AQP4 抗体陽性の患者について、SA-307JG 試験及び SA-309JG 試験の部分集団解析において、本剤群でプラセボ群と比較して再発リスクが低下しており、再発時の重症 PDR の被験者割合が低いことから、抗 AQP4 抗体陽性の患者においては本剤の有効性が示されている。
  • 一方、抗 AQP4 抗体陰性の患者について、SA-307JG 試験及び SA-309JG 試験の部分集団解析において、初回 PDR の発現例数の評価で本剤群とプラセボ群の結果に明確な差異は認められていない。また、再発の例数が少なく評価が困難であるものの、再発時の重症 PDR の被験者割合についてもSA-307JG 試験では違いが認められておらず、本剤投与により抗 AQP4 抗体陰性の患者において再発時の重症 PDR の被験者割合が低下していると明確に判断することは困難である。そのため、抗 AQP4抗体陰性の患者において、本剤の有効性が期待できると判断することは困難である。
  • 以上より、抗 AQP4 抗体の陽性・陰性別で本剤の有効性が異なる傾向が示されており、抗 AQP4 抗体陰性の患者においては、本剤の有効性は明確になっていない。
  • 以上の判断の適切性については、専門協議を踏まえて最終的に判断したい。また、本剤の投与対象に抗 AQP4 抗体陰性の患者を含めることの適切性については、7.R.4.2 で引き続き議論する。

臨床的位置付けについて

機構は、本剤の臨床的位置付けについて説明するよう申請者に求めた。

申請者は、以下のように説明した。

  • NMOSD は、重度の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする免疫性中枢神経疾患であり、その疾患概念は、本剤の開発時期と一部重なる形で経時的に変化してきた。以前は、重度の視神経炎と横断性脊髄炎からなる単相性疾患という概念として「Devic 病」と呼ばれていたが、2004 年に抗 AQP4 抗体が発見され ( Lancet 2004; 364: 2106-12 ) 、 2006 年 に NMO の 診 断 基準が提唱された(Neurology 2006; 66: 1485-9)。その後、抗 AQP4 抗体陽性の患者の解析が進むにつれて、NMO の部分症と考えられる視神経炎や脊髄炎の単独例も多く、単独の脳病変例での抗 AQP4 抗体陽性の患者も認められることが明らかになった。また、病理学的な検討や動物モデルによる検討により、抗AQP4 抗体が単なる疾患マーカーではなく中枢神経系への病原性をもつことが確定的となった。このことにより、抗 AQP4 抗体が陽性であれば同一の疾患概念に含まれると考えられるようになり、2007 年に抗 AQP4 抗体が関与するスペクトラムが定義され、NMOSD と命名された(Lancet Neurol 2007; 6: 805-15)。2015 年には、国際的パネルである International Panel for NMO Diagnosis により診断基準がさらに整備された結果、NMOSD が統一用語として定義され(Neurology 2015; 85: 177-89)、抗 AQP4 抗体という特異な自己抗体を生じ得る共通の病態を背景とする一群を広く包括する基準となった。現在、本邦においては 2015 年の基準が広く用いられている(多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン 2017. 医学書院; 2017)。
  • NMOSD の再発予防に対する治療薬として、2019 年 11 月にエクリズマブが本邦で承認された。エクリズマブはヒト補体である C5 に対するヒト化モノクローナル抗体であり、補体 C5 の開裂を阻害することで、抗 AQP4 抗体を介した補体活性化によるアストロサイトの傷害を抑制すると考えられている。一方、本剤は IL-6R に対するヒト化モノクローナル抗体であり、IL-6 シグナル伝達を阻害することで、B 細胞による抗体産生や血液脳関門の透過性を抑制し、アストロサイトの傷害を抑制すると考えられている(3.R.1 参照)。
  • 本剤とエクリズマブの臨床的位置付けの差異について、直接比較した臨床試験は実施されていないため検討には限界があるものの、いずれの製剤でも NMOSD の再発予防効果が認められており、本剤では IL-6 阻害作用に起因する感染症が、エクリズマブでは補体複合体産生阻害に起因する髄膜炎菌感染症が特に懸念すべき事象と考えられ、髄膜炎菌感染症の危険因子を持つ又はリスク管理が難しい患者では本剤が治療選択肢として考えられる。また、用法・用量について、エクリズマブは 2週に 1 回静脈内投与する製剤である一方、本剤は 4 週に 1 回(投与開始 4 週までは 2 週に 1 回)皮下投与する製剤である。
  • 以上より、本剤又はエクリズマブの位置付けに言及した診療ガイドラインはないものの、本剤とエクリズマブは、両製剤の安全性、利便性及び患者背景や患者の状態等に応じて選択されると考える。
  • エクリズマブ以外の NMOSD の再発予防の標準治療として、経口副腎皮質ステロイド剤及びその他の免疫抑制療法(アザチオプリン又はミコフェノール酸モフェチル等)の投与が推奨されている(多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン 2017. 医学書院; 2017)。しかしながら、多くの患者で再発を抑制できない場合があることや、再発が抑えられても副腎皮質ステロイド剤等の長期投与に伴う副作用が生じうること等から、新たな治療選択肢が求められている。
  • 今般、国際共同第Ⅲ相試験(CTD 5.3.5.1-1: SA-307JG 試験)及び海外第Ⅲ相試験(CTD 5.3.5.1-2: SA-309JG 試験)の二重盲検期間において、NMOSD 患者に対する本剤の有効性及び安全性が示されたことから、本剤は NMOSD 患者の再発予防に対する新たな治療選択肢となると考える。

機構は、以上の申請者の説明について了承した。

参照

新医薬品の承認品目一覧

https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0010.html

PMDA医療用医薬品 情報検索

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

検索結果
一般名 サトラリズマブ(遺伝子組換え)
販売名 エンスプリング皮下注120mgシリンジ
製造販売業者等 製造販売元/中外製薬株式会社
添付文書 PDF(2020年08月26日)  /  HTML  /  XML
患者向医薬品ガイド/ワクチン接種を受ける人へのガイド G_エンスプリング皮下注120mgシリンジ
インタビューフォーム F1_エンスプリング皮下注120mgシリンジ
RMP
RMP資材/医療従事者向け 適正使用ガイド
RMP資材/患者向け エンスプリングを処方された患者さんへ
改訂指示反映履歴および根拠症例
審査報告書 審査報告書(2020年06月29日)
申請資料概要 申請資料概要
PLUS CHUGAI

エンスプリング皮下注120mgシリンジ https://chugai-pharm.jp/product/ens/sc_a/

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