ビジネス全般

食品の安全確保推進研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

1.研究事業の目的・目標

【背景】

食品の安全性確保については、国民の健康を守るために極めて重要であり、多くの国民が高い関心をもっている。また、腸管出血性大腸菌等による食中毒は国民の健康へ直接的に影響を及ぼすことから、科学的根拠に基づき適切に対応する必要がある。厚生労働省は、食品のリスク分析(リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーション)の考え方に基づいて食品のリスク管理機関として位置づけられており、行政課題として以下が挙げられる。

  • 食品等(畜水産食品、食品添加物、残留農薬、食品汚染物質、器具・容器包装等)の規格基準の策定
  • 食品等の効果的・効率的な監視・検査体制(輸入食品、食中毒対策、遺伝子組換え食品、ホルモン剤等)の整備や、国際的に認められた食品の安全性確保の衛生管理手法であるHazard Analysis and Critical Control Point (HACCP)の普及の推進
  • 食品安全施策に係る効果的なリスクコミュニケーションの実施

本事業では、改正食品衛生法の施行を背景とする新しい食品衛生施策も含め、食品行政全般を科学的な根拠に基づいて推進するための研究を実施している。

【事業目標】

① 食品の規格基準や監視指導等に資する研究などから得られた成果を、科学的根拠に基づく食品安全行政施策の企画立案・評価を含め日本国内で活用することによって、食品安全施策の基本的な枠組みを強化する。

② 食品衛生規制の見直しに関する科学的根拠を構築する。

③ 研究成果を外交交渉や、国際機関への提供などを含めた国際貢献等に活用する。

【研究のスコープ】

以下の5つの視点に基づいた研究を推進していく。

※各研究については視点をまたぐものもある。

○改正食品衛生法に基づく新たな食品安全施策の推進

・ 新たな食品衛生管理方法の導入に基づく検証手法の確立、並びにさらなる高度化に向けたデータ及び知見の収集に関する研究
・ 食品の適正なリスク管理に必要な、食品等の規格基準を設定するための科学的根拠を確立する研究

○食品の輸出拡大に向けた衛生管理の強化等、国際化対応

・ 我が国からの食品輸出促進のための、食品の衛生管理手法の国際調和及びその推進に関する研究
・ 最近の国際的動向を踏まえた、食品安全行政における国際調和と科学的根拠に裏付けされる施策の推進に資する研究

○多様化・高度化する食品技術への対応

・ フードテックを応用して得られた新開発食品に対する先駆的な調査検討による安全性確保のための研究
・ 最新の科学的知見に基づいた、国内外に流通する食品等の安全性確保のための効果的かつ効率的な監視方法並びに各種試験方法の改良・開発に資する研究
・ 国民や事業者等に対して効果的にリスクコミュニケーションを行うための手法等の開発に関する研究

○若手枠の推進による新規参入の促進

  • 食品安全分野の研究の多様化・高度化に資する研究

○食品安全研究全体の総合的推進

  • 食品の安全確保推進研究事業の総合的推進に関する研究

【期待されるアウトプット】

  • 国内流通食品等における食品衛生上の問題発生の未然防止、並びに発生時における原因究明手法の確立及びその迅速化を図る。
  • 食品の基準や安全性に関する審議会等の審議資料等の根拠として使用し、食品衛生に関する法令改正の検討につなげる。
  • 食品安全に関連する科学的知見や考察をとりまとめ、国際機関(コーデックス等)の外交交渉の場において使用される資料を作成する。
  • 国際食品規格の策定に関し、日本政府の対応・貢献に対する専門的助言を行う。

【期待されるアウトカム】

  • 得られた研究成果を食品衛生法に基づく衛生規制に反映することにより、食品の安全対策が一層強化された仕組みとなることから、食中毒の発生件数の低下、食中毒等発生時の迅速な原因究明、及びそれに伴う健康被害の拡大防止による患者数の低下等が期待される。
  • 国際機関への情報提供などを通じて、食品安全の向上に関する国際貢献においてわが国が高い評価を得ることが期待される。また、食品の衛生管理手法の国際調和及びその推進を行うことにより、輸出入時における食品衛生上の障壁を取り除くこととなり、農林水産物・食品の輸出額の増加につながることが期待される。
  • 効果的なリスクコミュニケーションの手法の開発、実施等を通じて、消費者、食品事業者、行政等の関係者が相互に信頼できる食品安全施策となることが期待される。

2.これまでの研究成果の概要

・【食品微生物試験法の国際調和に関する研究(平成 29 年度から令和元年度)】
国際調和を図るため、リステリア・モノサイトゲネス及び腸内細菌科菌群の試験法を改定した。

・【新たなバイオテクノロジーを用いて得られた食品の安全性確保とリスクコミュニケーションのための研究(平成 30 年度から令和2年度)】
ゲノム編集技術応用食品を含むバイオテクノロジー応用食品について、消費者や開発者等へのリスクコミュニケーション推進に資するパンフレットなどを作成した。

・【「健康食品」の安全性・有効性情報データベースを活用した健康食品の安全性確保に関する研究(平成 30 年度から令和2年度)】
健康食品等に使用される原材料 64 種類について、医薬品との相互作用に関する情報を「健康食品」の安全性・有効性情報データベースに掲載した。

・【日本国内流通食品に検出される新興カビ毒の安全性確保に関する研究(令和元年度から令和3年度)】
国際機関でのリスク評価が見込まれるカビ毒について一斉分析法及び簡易分析法を開発した。また汚染実態データの収集や分析法の妥当性評価を進めた。

・【食品添加物の安全性確保に資する研究(令和元年度から令和3年度)】
指定添加物の生産・流通量調査をもとに個々の添加物に関する一人一日摂取量を推計し、一日摂取許容量(ADI)との比較評価を行った。

・【食品用器具・容器包装等の安全性確保に資する研究(令和元年度から令和3年度)】
食器用器具・容器包装の規格試験法であるビスフェノールA分析法の改良とその性能評価を行った。

・【食品由来薬剤耐性菌のサーベイランスのための研究(平成30年度から令和3年度)】
薬剤耐性状況の研究成果について、「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書」に活用した。

・【野生鳥獣由来食肉の安全性の確保とリスク管理のための研究(令和元年度から令和3年度)】
シカ、イノシシ等わが国に生息する野生鳥獣が保有する食中毒菌等の実態を解明した。
また、厚生労働省ホームページに掲載されているジビエカラーアトラスのデータを更新した。

・【食中毒調査の迅速化・高度化及び広域食中毒発生時の早期探知等に資する研究(令和2年度から令和4年度)】
集団事例迅速探知システムを稼働し、実証実験を実施。

・【食品中の放射性物質等検査システムの評価手法の開発に関する研究(令和2年度から令和4年度)】
食品中の放射性物質検査結果の詳細解析と検査計画策定ガイドラインへの反映を行った。

・【と畜・食鳥処理場におけるHACCP検証手法の確立と食鳥処理工程の高度衛生管理に関する研究(令和2年度から令和4年度)】
と畜・食鳥処理場におけるHACCP検証手法に関する自治体向け通知原案を作成した。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

・食品微生物試験法の国際調和に関する研究
食品中の微生物試験法については設定から数十年が立ち、諸外国と異なるものについては国際的に整合性がとれている方法の採用及び現行の試験法の現時点における妥当性について調査研究する必要がある。

・食中毒調査の迅速化・高度化及び広域食中毒発生時の早期探知に資する研究
食中毒調査の際、MLVA 型の一致は共通発生要因があると推定して調査を進める根拠となることから、地理的及び時間的な観点において MLVA 型の一致の有効性を明らかにする必要がある。また食中毒の集団発生・広域散発事例を検証し、広域食中毒の調査手法の改善・改良により、食中毒の早期探知及び拡大防止を図る必要がある。このため検証の精度を高めるためにサンプル数を増加する必要がある。

・食品の安全確保推進研究事業の総合的推進に関する研究
食品安全に関する研究調査の横断的かつ俯瞰的な評価・戦略策定を充実し、食品の安全確保推進研究事業の個別の研究班の成果の質の向上、及び総合的な成果の向上を図る必要がある。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

・食品用器具・容器包装等の衛生的な管理の推進に資する研究
食品用器具・容器包装の製造事業者の多くは中小企業であり、また有機資源を使用したプラスチック素材の開発やリサイクル品を原料とした容器包装の製造など、SDGs の取組の促進が予想されるため、当該事業者が自主的かつ衛生的に製造を管理できる仕組みを構築する必要がある。

・食品中残留農薬等の試験法開発における課題の解決のための研究
食品中の夾雑物の影響や分析対象物質の性質等により高感度かつ高精度な試験法を開発することが困難な場合があるが、残留基準への適否を判断するためには迅速かつ効率的な試験法の開発が望まれることから、試験法開発の課題を解決する必要がある。

・我が国における食品の生物学的ハザードとそのリスク評価をするための研究
我が国の汚染実態等に関する知見を踏まえ、我が国の実態やリスク要因に応じた規格基準の設定について検討する必要がある。

・食品添加物の指定等手続きの国際動向に関する研究
特にEUは食品添加物に関して関心を寄せているため、日本とEU等の指定手続きや周辺環境の相違等を調査し、それらを踏まえた対応を検討する必要がある。
・食品を介したダイオキシン類等有害物質摂取量の評価とその手法開発に資する研究

国内における汚染実態・摂取実態を把握し、国際規格を日本にとって不利益にならないものとするためにデータ収集が必須となる。

・フードテックを応用して得られた新開発食品に対する先駆的な調査検討による安全性確保のための研究
持続可能な食料供給システムの構築するため開発が進むフードテックを応用した食品について、リスク管理に資する情報収集し、適切な規制の検討を進める必要がある。

・食品衛生分野の研究への新規参入を促すための「若手枠」の推進
研究者の層が薄い食品衛生分野への研究者の参入を促すため、「若手枠」を推進する必要がある。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

●継続研究課題のうち優先的に推進するもの
・食品中の微生物試験法について、国際的に整合性がとれている方法の採用及び現行の試験法の妥当性が確認される。
・新たな食品衛生管理方法の検証手法を確立するとともに、さらなる高度化に向けたデータ及び知見の収集を行うことにより、検証結果に基づいた食品事業者等に対する効果的な指導が可能となり、事業者の新たな衛生管理手法の導入が促進される。また新たな食中毒調査手法の導入により、広域的な食中毒発生を迅速に探知することが可能となり、食中毒被害の拡大防止を図ることが可能となる。
・厚生労働省に対し、国の内外を問わず求められている食品の安全性に関する各種データを収集し関係機関等への情報の提供を可能とする。

●新規研究課題として推進するもの
・食品用器具・容器包装製造事業者が自主的に衛生的に製造管理する仕組みが構築される。
・食品中の農薬について、より高感度かつ高精度な試験法に基づき基準適否を判断できる。
・我が国における食品の微生物汚染実態やリスク要因に応じた規格基準の設定について検討する。
・添加物指定等の要請資料作成に関する手引きの見直しを検討する。
・フードテックを応用した食品に係る適切な規制を検討する。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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