医療機関の種類によって、医師の勤務環境や働き方には大きな違いがあります。現在日本では医師の長時間労働が社会問題となっており、2024年4月から「医師の働き方改革」が本格的に始まりました。本報告書では、病院と診療所という異なる医療機関で働く医師の勤務実態の違いや、働き方改革による変化について詳細に解説します。
Table of Contents
病院と診療所の基本的な違い
病院と診療所(クリニック)は、その規模や医療提供体制に大きな違いがあり、それが医師の働き方にも影響を与えています。
施設規模と人員配置
病院と診療所の最も明確な違いは、入院患者用のベッド数です。病床数が20床以上ある医療機関は「病院」、19床以下または入院施設がない医療機関は「診療所」と定義されています3。病院では医師が最低3名以上必要であり、外来患者40人に対して医師1人、入院患者16名に対して医師1人という配置基準があります3。一方、診療所では医師一人でも開業が可能で、特に入院施設がない場合は医師一人で診療を行うケースが一般的です3。
また、職員構成にも大きな違いがあります。病院では看護師、准看護師、看護補助者に加え、薬剤師や栄養士、放射線技師、作業療法士、理学療法士など、専門的なスタッフの配置が義務付けられています3。診療所では入院施設がある場合に限り、看護師などの配置が必要となります。このような人員配置の違いは、医師の業務範囲や負担にも直接影響します。
病院で働く医師の勤務実態
長時間労働の現状
病院で働く医師、特に勤務医の長時間労働は深刻な問題です。令和元年度の調査によると、医療機関で働く医師の約40%が月80時間以上の残業(時間外・休日労働)を行っており、その2倍に相当する残業を行っている医師も約1割存在しています1。この状況は医師の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、医療の質や安全性にも関わる重要な問題です。
業務の特徴と負担
病院勤務医の業務は多岐にわたります。高度化する医療技術への対応、患者への病状説明、血圧測定、記録作成など様々な業務が医師に集中しています1。また、病院では複数の診療科での連携や、緊急対応、夜間当直などの業務も発生するため、業務負担が大きくなる傾向があります。
診療所で働く医師の特徴
勤務形態と業務内容
診療所では多くの場合、医師一人で診療を行っています。病院と比較すると、対応する疾患や処置の範囲は限定的である一方、一人の医師が担う責任は大きいといえます。院長(開業医)の場合は診療だけでなく経営面の責任も担うことになります。
診療所では入院患者がいないか少数であるため、外来診療が中心となります。そのため、病院と比較すると夜間の緊急対応は少ない傾向にありますが、地域によっては診療所でも当番制で夜間や休日の診療を担当することもあります。
医師の働き方改革とその影響
働き方改革の背景と目的
医師の働き方改革は、長時間労働の是正を通じて医師の健康を確保し、医療の質と安全を維持するとともに、持続可能な医療提供体制を構築することを目的としています1。睡眠不足による作業能力の低下や、勤務時間の長さとヒヤリ・ハットの経験率に相関関係があるというデータもあり、医師の健康確保は患者安全に直結する問題です1。
具体的な改革の内容
2024年4月から医師の残業時間に上限を設ける制度がスタートしました。一般的にはA水準(時間外・休日労働時間の年上限が960時間)が適用されています2。
医師の労働時間短縮のための具体的な取り組みとしては以下のようなものが実施されています:
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タスク・シフト/シェア:医師の業務を他の医療職種に移管または分担
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複数主治医制の導入:特定の医師への負担集中を防止2
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副主治医制の導入:主治医の負担軽減2
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非常勤医師の確保:土日、祝日の宿日直業務の分担2
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ICT技術の活用:業務効率化
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短時間勤務など柔軟な勤務形態の導入:特に子育て世代の医師支援
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地域の病院間での役割分担:救急の輪番制の導入など1
病院と診療所の連携と今後の展望
医療機関間の連携強化
医師の働き方改革を進めるためには、病院と診療所の適切な役割分担と連携が不可欠です。大学病院をはじめとする地域の医療機関の医師が協力して小児、お産、救急における日当直業務を実施するなどの取り組みも行われています2。
組織的な取り組みの重要性
医師の働き方改革は、個々の医師だけの問題ではなく、医療機関全体で取り組むべき課題です。管理職等を対象としたマネジメント研修の実施や、役割分担会議の定期的な開催などにより、医師の負担軽減に努めている医療機関もあります2。
結論
病院と診療所では、その施設規模や医療提供体制の違いにより、医師の勤務環境や働き方に大きな差異があります。病院、特に大規模な医療機関では医師の長時間労働が課題となっている一方、診療所では医師一人当たりの責任範囲が広いという特徴があります。
2024年4月からスタートした医師の働き方改革は、医師の健康確保と医療の質・安全の両立を目指すものであり、タスク・シフト/シェアや複数主治医制の導入など、様々な取り組みが進められています。これらの改革を成功させるためには、医療機関や医療従事者だけでなく、患者を含めた関係者全体の理解と協力が不可欠です1。
日本の医療制度が将来にわたって持続可能なものとなるよう、病院と診療所それぞれの特性を活かした連携と、医師が健康に働き続けられる環境整備がますます重要となっていくでしょう。