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⑵ 侵襲
研究目的で行われる、穿刺、切開、薬物投与、放射線照射、心的外傷に触れる質問等によって、研究対象者の身体又は精神に傷害又は負担が生じることをいう。
侵襲のうち、研究対象者の身体又は精神に生じる傷害又は負担が小さいものを「軽微な侵襲」という。
研究目的でない診療における穿刺、切開等
研究目的でない診療における穿刺、切開等は、この指針の定義上「侵襲」を伴うものでなく、研究目的でない診療で採取された血液、体液、組織、細胞、分娩後の胎盤・臍帯等(いわゆる残余検体)を既存試料・情報として用いる場合には、研究対象者の身体に傷害及び負担を生じない(=「侵襲」を伴わない)と判断してよい。
薬物投与
⑵の「薬物投与」には、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号。以下「医薬品医療機器等法」という。)に基づく承認等を受けた医薬品(以下「既承認医薬品」という。)を、研究目的で、当該承認の範囲内で投与する場合も含まれる。ただし、既承認医薬品を研究目的で投与する場合であっても、その成分や用法・用量等によっては、研究対象者の身体及び精神に生じる傷害及び負担が極めて小さく、「侵襲」を伴わないとみなすことができる場合もあり得る。
なお、例えば、ある傷病に罹患した患者を研究対象者として、その転帰を追跡する研究(介入を行わない前向き研究)が実施されることがあるが、研究目的でない診療における投薬によって、その人の身体に傷害又は負担が生じる場合は、この指針の定義上「侵襲」に含まれない。
放射線照射
⑵の「放射線照射」に関して、研究目的でない診療で研究対象者が同様な放射線照射を受けることが見込まれる場合であっても、また、研究対象者に生じる影響を直接測定等できなくても、研究目的で一定の条件を設定して行われる放射線照射は、それによって研究対象者の身体に傷害又は負担が生じる(=「侵襲」を伴う)ものとみなす。
心的外傷に触れる質問
⑵の「心的外傷に触れる質問」とは、その人にとって思い起こしたくないつらい体験(例えば、災害、事故、虐待、過去の重病や重症等)に関する質問を指す。このような質問による場合のほか、例えば、研究目的で意図的に緊張、不安等を与える等、精神の恒常性を乱す行為によって、研究対象者の精神に負担が生じることも「侵襲」に含まれる。
身体又は精神に傷害又は負担
⑵の「研究対象者の身体又は精神に傷害又は負担」とは、平常時に被る範囲を超える恒常性の変化、健康上の影響(自覚されないものを含む。)等であって、確定的に研究対象者の身体又は精神に生じるものを指し、実際に生じるか否かが不確定な危害の可能性(例えば、研究目的の薬物投与によって有害事象を生じるリスクなど)は含まない。
研究対象者の精神に生じる傷害及び負担の程度を判断するに当たっては、研究対象者とする集団において一般的に想定される精神的苦痛等により判断してよい。
軽微な侵襲
⑵の「軽微な侵襲」は、疫学研究に関する倫理指針(平成 19 年文部科学省・厚生労働省告示第1号。以下「疫学研究倫理指針」という。)及び臨床研究に関する倫理指針(平成 20 年厚生労働省告示第 415 号。以下「臨床研究倫理指針」という。)の各細則において「最小限の危険」(日常生活や日常的な医学検査で被る身体的、心理的、社会的危害の可能性の限度を超えない危険であって、社会的に許容される種類のもの)と規定していたものにおおむね対応するものであるが、この指針では、実際に生じるか否かが不確定な危害の可能性は含めず、確定的に研究対象者の身体又は精神に生じる傷害又は負担のうち、その程度が小さいものとして規定している。
研究対象者に生じる傷害及び負担が小さいと社会的に許容される種類のもの、例えば、採血及び放射線照射に関して、労働安全衛生法に基づく一般健康診断で行われる採血や胸部単純X線撮影等と同程度(対象者の年齢・状態、行われる頻度等を含む。)であれば、「軽微な侵襲」を伴うと判断してよい。
また、研究目的でない診療において穿刺、切開、採血等が行われる際に、上乗せして研究目的で穿刺、切開、採血量を増やす等がなされる場合において、研究目的でない穿刺、切開、採血等と比較して研究対象者の身体及び精神に追加的に生じる傷害や負担が相対的にわずかである場合には、「軽微な侵襲」と判断してよい。
このほか、例えば、造影剤を用いない MRI 撮像を研究目的で行う場合は、それによって研究対象者の身体に生じる傷害及び負担が小さいと考えられ、長時間に及ぶ行動の制約等によって研究対象者の身体及び精神に負担が生じなければ、「軽微な侵襲」と判断してよい。
また、例えば、質問票による調査で、研究対象者に精神的苦痛等が生じる内容を含むことをあらかじめ明示して、研究対象者が匿名で回答又は回答を拒否することができる等、十分な配慮がなされている場合には、研究対象者の精神に生じる傷害及び負担が小さいと考えられ、「軽微な侵襲」と判断してよい。
16 歳未満の未成年者を研究対象者とする場合
「軽微な侵襲」とすることができるか否かは、研究対象者の年齢や状態等も考慮して総合的に判断する必要があり、例えば、16 歳未満の未成年者を研究対象者とする場合には身体及び精神に生じる傷害及び負担が必ずしも小さくない可能性を考慮して、慎重に判断する必要がある。
食品・栄養成、尿・便・喀痰、唾液・汗等の分泌物、抜け落ちた毛髪・体毛
特定の食品・栄養成分を研究目的で摂取させる場合について、研究対象者とする集団においてその食経験が十分認められる範囲内であれば、それによって研究対象者の身体に傷害及び負担を生じない(=「侵襲」を伴わない)と判断してよい。
自然排泄される尿・便・喀痰、唾液・汗等の分泌物、抜け落ちた毛髪・体毛を研究目的で採取する場合や、表面筋電図や心電図の測定、超音波画像の撮像などを研究目的で行う場合については、長時間に及ぶ行動の制約等によって研究対象者の身体及び精神に負担が生じなければ、「侵襲」を伴わないと判断してよい。
運動負荷
研究目的で研究対象者にある種の運動負荷を加えることが「侵襲」を伴うか否か、また、「侵襲」を伴う場合において「軽微な侵襲」とみなすことができるか否かについては、当該運動負荷の内容のほか、研究対象者の選定基準、当該運動負荷が加えられる環境等も考慮して総合的に判断する必要がある。
当該運動負荷によって生じる身体的な恒常性の変化(呼吸や心拍数の増加、発汗等)が適切な休息や補水等により短時間で緩解する場合には、平常時に生じる範囲内の身体的な恒常性の変化と考えられ、研究対象者の身体に傷害及び負担が生じない(=「侵襲」を伴わない)と判断してよい。また、研究対象者の身体及び精神に傷害及び負担を生じないと社会的に許容される種類のもの、例えば、文部科学省の実施する体力・運動能力調査(新体力テスト)で行われる運動負荷と同程度(対象者の年齢・状態、行われる頻度等を含む。)であれば、「侵襲」を伴わないと判断してよい。
研究責任者が判断
個々の研究に関して、その研究が「侵襲」を伴うものか否か、また、「侵襲」を伴う場合において当該「侵襲」を「軽微な侵襲」とみなすことができるか否かについては、上記を適宜参照の上、一義的には研究計画書の作成に際して研究責任者が判断し、その妥当性を含めて倫理審査委員会で審査するものとする。
参照
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html