今回のテーマは「ちゃんと使い分け出来ていますか?割合、率、比の概念(有病率、発生率も)」です。
言葉の定義はきちんと理解して使わないと意思疎通の妨げになり、誤解に繋がりかねません。日本語は良くも悪くも言葉に曖昧さが残されており、専門知識を持っている人でも結構あいまいな言葉遣いをしているケースが散見されます。
本記事が、「割合、率、比」の違いについて理解を深める一助になることを願います。
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割合、率、比の概念
割合 (proportion)
割合は、「注目している量÷全体の量」という式で表されることがあります。医学や疫学、公衆衛生学の文脈で使われる際には、「人口10万人あたり、疾患Aを有する人は5000人なので、疾患Aの有病率は5%」等と表現されます。分母(注目している量)と分子(全体の量)が同じ単位なので、割り算によって単位が相殺されるため、割合には単位がありません(無次元)。
また、「全体に占める割合」という意味で使われることが基本なので、医学や疫学、公衆衛生学においては、割合は0から1(0%から100%)の間しかとりません。もし、割合なのに100%を超えているようなことがあれば、それは何か普通ではない状況なので要注意です。
有病率は、本来は有病割合と表現されるべきものなのですが、慣用的に有病率という言葉が使われてしまっています。辞書を変更して率と割合のオーバーラップを消してほしいところですが、「打率」「利益率」といった、本来なら「割合」として表現されるべきものにも率という言葉が使われているので根は深いですね。
率 (rate)
率は、「注目している量÷時間」という式で表されます。単位時間あたりに、注目している量がどの程度あるのか、という意味で使われます。そのため、次元は「注目している量の単位/時間」となります。
例えば、1年あたりの出生率を表現したい場合には、「注目している年に生まれた赤ちゃんの人数÷年」となるので、単位は「人/年」です。
比 (ratio)
比は、「比べる」の文字通り、ありとあらゆるものを比べるために使われます。「男女比」ならば、「男性人数÷女性人数」あるいは「女性人数÷男性人数」となり、どちらも「人」が単位なので、単位を消すことができ、0.8や1.25などと表現されます。「1 : 1.25」や「0.8 : 1」と表現されることもあるでしょう。
ただ、分母と分子のどちらが男性でどちらが女性かが分からなくなってしまうので、あえて単位を残しておくという方法もあります。
割合は「全体に占める割合」という意味で使われますが、比は「比べた結果を単純化したもの」という違いがあります。
有病率、発生率の違い
有病率 (prevalence)
有病率は、ある時点(または期間)において、注目している集団内に存在する「疾患Aにかかっている人たち」の割合を指します。割合なのに率という言葉が使われているのでややこしいですが、有病率は、厳密には「率」ではなく「割合」です。
式で表現するならば、「ある時点(または期間)で疾患Aにかかっている人の人数」÷「ある時点(または期間)で、注目している集団内にいる人数」です。
有病率は、スナップ写真のようなイメージです。写真を撮ったら、100人中、30人が疾患Aにかかっていました、という感覚ですね。
時点についても、完全な「点」でとらえる場合もあれば、「一定の期間(1ヶ月や1年)」のように幅を持たせる場合もあるので、分母をどうするかというのは予想よりも難しかったりします。
※2019年の1月に生まれた赤ちゃんと、2019年11月に生まれた赤ちゃんを、2019年の母集団に同列に含めて良いか?など。
発生率 (incidence rate)
ある疾患の発生率(prevalence rate)は、注目している集団において、ある期間内に発生する症例数と定義できます。
式で表現するならば、「一定期間内に、新たに疾患Aにかかった人数」÷「一定期間内に、注目している集団内にいた人数」です。
重要なポイントは、「新たに疾患Aにかかった人数」を数えているところです。また、分母となる集団は、「疾患Aにかかるかもしれないリスクを持っている人たち」にしないと意味のある情報が得られません。地球における感染症Bの発生率を調べたいときに、宇宙ステーションにいる人たちを分母に加えても意味がありませんよね。
発生率は速度のようなものに近く、「ある期間で、疾患Aはどの程度の速さで発生していたか」を表現しています。
まとめ
割合、率、比といった日常生活に溢れている言葉についても、意識して使い分けるようにすると、意思疎通の弊害も減らせるでしょう。ニュースを読む・見る時も、言葉遣いがきちんとしているかどうかは、その信憑性をはかる上でも有用です。
それでは、また。