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1.研究事業の目的・目標
【背景】
新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、生命、生活、所得・雇用、居住、医療、福祉等様々な問題を引き起こしている。このように、地球規模の保健課題は、近年国際社会における重要性が非常に高まっており、国際保健の枠組みの見直しも視野に、世界保健機関(WHO)のみならず、国連総会、G7及び G20 等の主要な国際会議において重要な議題となっている。また、2015 年 9 月の国連総会で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)では、保健分野のゴールが引き続き設定され、国際的な取組が一層強化されている。
わが国では「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本方針」、「平和と健康のための基本方針」、「未来投資戦略 2018」、「骨太方針 2020」、「統合イノベーション戦略 2020」及び「健康・医療戦略」等、国際保健に関連する政府方針・戦略の策定が近年相次いでいる。これらの方針・戦略では、わが国が地球規模保健課題の取組に貢献することが政策目標とされ、国際機関等との連携によるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)や健康安全保障の推進、健康・医療に関する国際展開の促進等が謳われている。
わが国は、国を挙げて SDGs の達成に向けて取り組むとともに、令和元年に G20 大阪サミット、G20 岡山保健大臣会合を主催し、令和2年には UHC フォーラム 2020 をバンコクにて共催した。新型コロナウイルス感染症に対する国際的な対応においても、諸外国や国際機関と連携し、新規の協力枠組み創設を含む、多大なる貢献を行ってきた。さらに、わが国は国際保健分野における様々な場面で議論を主導しており、令和3年には東京栄養サミット 2021 を主催し、令和5年には再びわが国が G7の議長国になる予定である。
【事業目標】
地球規模の保健課題を国際社会が一致して対処する重要性が高まる中、限られた財源を戦略的に活用して保健分野における国際政策を主導し国際技術協力等を強化することにより、より効果的・効率的に国際保健に貢献し、地球規模保健課題への取組を通じた持続可能で強靱な国際社会の構築を目指す。
【研究のスコープ】
- (ア)新型コロナウイルス感染症対策を含む、保健関連の SDGs の達成及びそれに向けた状況評価
- (イ)わが国が主催または共催した G20 大阪サミット・G20 岡山保健大臣会合・UHC フォーラム 2020 等の国際会議の成果評価、及び将来わが国が主催する会議に向けた準備とその終了後の成果評価
- (ウ)国際保健政策人材の養成
- (エ)保健関連の国際機関・団体に対するより戦略的・効果的な資金拠出と関与の方法の検討
【期待されるアウトプット】
わが国が地球規模の保健課題に取り組み、わが国のみならず諸外国の保健医療の向上への貢献を推進することで、国際保健に関連する政府方針・戦略に資する。具体的には以下のとおりである。
- (ア)保健関連の SDGs には、UHC の達成、生涯を通じた健康の確保、感染症対策、非感染性疾患の予防と治療、外傷予防、薬物濫用の予防と治療、人体に有害な環境の改善等が含まれており、わが国及びわが国が支援を行っている各国におけるこれらの課題の達成に向けた対策の立案及び進捗状況評価を行う。
- (イ)日本が主催または共催した国際会議等において、UHC 推進や公衆衛生危機対応に関する各種の提言や宣言が発表された。また、令和3年にわが国が主催する予定である東京栄養サミット 2021 や令和5年のわが国が議長国になる予定の G7においても同様に提言や宣言の発表が見込まれる。これまでに発表された提言や宣言の実施状況を確認するとともに、将来わが国が主催する保健に関する国際会議で検討すべき課題を明らかにする。
- (ウ)国連機関等の公的組織や WHO 専門家委員会等でリーダーシップを発揮する日本人が不足している。また、WHO の最高意思決定機関である WHO 総会等の国際会合では、科学的、政治的、歴史的知見を要する議題が多数存在しているため、国際舞台でわが国の立場を効果的に主張するためには、これら知見を有するアカデミアが、行政官とは違った視点で、これまでの国際的な議論を解析する必要がある。したがって、これらの国際保健政策人材の育成・確保の方策を確立する。
- (エ)近年わが国は保健に関連する国際機関・団体への関与を重視しているが、それらに対していかにより戦略的・効果的に資金拠出と関与をしていくべきか、また多数の国際機関・団体のなかで、今後わが国が関与していくべき団体はいかなるものかは不明確であるため、これらの情報を把握し、資金拠出と関与の方法を確立する。
【期待されるアウトカム】
本研究事業の成果を、国際保健における課題解決推進に向けて活用し、また、SDGs 達成までにおける中間の年である 2023 年の状況評価を行うことで、2030 年において SDGs を達成するといった日本の国際社会への貢献に繋がる。これらにより、国際保健に関連する政府方針・戦略内の目標達成に貢献する。また、限られた財源の中で最大限に日本が国際保健分野において主導権をとり議論をリードすることを可能にするとともに、わが国の国際保健分野におけるプレゼンスを向上させる。
2.これまでの研究成果の概要
- (ア)や(イ)に該当する課題として「東アジア、ASEAN 諸国の人口高齢化と人口移動に関する総合的研究」では、東アジア,ASEAN 諸国における人口変動過程(少子化,長寿化,高齢化等)および関連する政策(少子化対策,家族政策,移民政策等)の比較分析により、個々の特徴や改善点を明らかして、その結果は9の論文と1冊の書籍として公表された(平成 29 年度)。
- (イ)に該当する課題として、「日本の高齢化対策の国際発信に関する研究」で、WHO のGlobal Strategy and Action Plan on Ageing and Health の評価指標を作成するワーキング会議や、Healthy Ageing に関する Stakeholder meeting 等に参加し日本の知見を踏まえ WHO の議論に貢献した他、WHO が出版した Integrated Care for Older People(ICOPE)に関してガバナンスの視点から課題点を抽出しレビュー論文を投稿した(令和元年度)。
- (ウ)に該当する課題として、「国外の健康危機時に対応できる人材を増強するために、必要なコンピテンシーの分析及び研修プログラムの開発に関する研究」では、WHO におけるGOARN(地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク)のワークショップを約 10 年ぶりに日本国内で開催し、国際感染症対応が可能な人材の登録名簿を作成し、トレーニングを行った(令和2年度)。
- (ア)に該当する課題として、「国連の「持続可能な開発目標3(SDG3)– 保健関連指標における日本の達成状況の評価および国際発信のためのエビデンス構築に関する研究」では、日本の SDG3.8.1 のスコアを計算し、政府公表資料の一部とする予定である(令和3年度において継続中)。
- (ウ)に該当する課題として、「国際会議で効果的な介入を行うための戦略的・効果的な介入手法の確立に資する研究」においては、WHO 総会における加盟国代表発言の場を想定して、わが国の立場を効果的に主張する技術を学ぶためのワークショップを開催した(令和3年度において継続中)。
3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの
なし
4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの
- 「Universal Health Coverage (UHC)の推進における世界の医療情報システムの革新の効果に関する調査分析」
患者の病状等の個人情報や医療サービス利用状況は、UHC 推進へ向けた医療保険の制度設計や、効果的な投資分野の特定のために重要な情報である。しかし、特に低中所得国においてこれら情報の適時における効率的、包括的な把握ができない現状がある。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、ハイリスクな者を把握し医療サービス提供へつなげることの重要性が高まっている。現在デジタル技術の活用により、電子母子手帳やパーソナルヘルスレコードといった様々な医療情報システムが開発されており、これらが低中所得国を含む世界での UHC 推進へ貢献する可能性がある。本課題では、世界各国における患者の病状等の個人情報や医療サービス利用状況を記録する医療情報システムの導入状況を幅広く調査し、導入前後における導入の効果を分析する。そこから、低中所得国特有の状況を踏まえた同システムの活用・応用方法、及び期待できる UHC 推進への効果を分析し、世界における UHC 推進へむけて、UHC、高齢化、災害等の国際保健においてリーダーシップを発揮してきたわが国がなし得る具体的な貢献を提言する。 - 「栄養に関する世界的な潮流及び主要国における栄養関連施策の調査分析」
国連に UN Nutrition が 2020 年に設立され、わが国主催の東京栄養サミット 2021 や国連食料システムサミット 2021 という栄養に関する国際会議も行われる。栄養の改善は「持続可能な開発目標(SDGs)」2.1、2.2 に含まれ、栄養を Universal Health Coverage (UHC) へ統合する動きもある。栄養に対し国際社会での注目が高まる中、従来の飢餓と低栄養のみならず同時に低栄養と過栄養の両方が存在する「栄養不良の二重負荷」も解決すべき問題として認識されている。これらは途上国のみならず先進国においても議論されるべき問題である。本課題では、G7や EU といった先進国を含めた各国の栄養政策に関して調査、課題抽出を行い、それをわが国の施策や状況と比較検討する。また、東京栄養サミット 2021 や国連食糧システムサミット 2021 での議論やコミットメント、コミットメント表明にいたるまでのプロセスや課題を分析調査し、課題となっている点を明らかにしつつ、SDGs 達成にむけて必要な関係者のコミットメントの更なる確保の方法やわが国の強みを生かした上で貢献できる点を明らかにする。これらを踏まえ、世界の栄養問題の解決へむけたわが国がなし得る具体的な貢献を提言する。
5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組
- 「Universal Health Coverage (UHC)の推進における世界の医療情報システムの革新の効果に関する調査分析」は(イ)に属する。低中所得国における医療情報システムの活用方法、及び UHC 推進への効果が示され、それがわが国が主催する保健に関する国際会議において議論され実現化への方向性が示される。示された成果が、国際保健分野におけるわが国の人的、金銭的貢献の方向性を検討する際の参考となる。これにより、わが国が関わる様々な保健に関する国際会議において主導権をとり、世界における UHC 推進に貢献する。
- 「栄養に関する世界的な潮流及び主要国における栄養関連施策の調査分析」は(ア)及び(イ)に属する。G7日本開催において、途上国のみならず先進国まで含んだ世界における栄養が、国際保健の主要なアジェンダとして掲げられ、そこにおいてわが国の栄養政策が発信される。わが国が関わる様々な保健に関する国際会議において主導し、世界における SDGs2.1, 2.2 達成及び UHC 推進に貢献する。