マイナンバーカードの保険証利用が2021年3月より始まります。
とはいえ、これはマイナンバーカードのオンライン資格確認を利用したものであり、マイナンバー制度そのものの活用とはやや異なります。
医療におけるマイナンバーの活躍の場は沢山考えられますが、今回は「臨床における必要性」「研究開発における必要性」「予防や健康保持増進における必要性」について見てみましょう。
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臨床における必要性
臨床においては、医療情報の歴史的な背景から、一人の患者さんの情報が施設単位で分散してしまっており、繋がっていないという悩みがあります(詳細は下記の記事もどうぞ)。
そのため、マイナンバーによって、一人に1つのID番号を発行することにより、散らばっているデータを一つにまとめやすくなるメリットは甚大です。
制度面でも、地域医療連携や地域包括ケアシステムに代表されるように、施設単位よりも施設横断的な地域を主体とした情報連携が推進されています。
マイナンバーは日本国民に対して付与されるIDですから、日本国民のヘルスケア情報を単一IDで管理できるということになります。
医療制度や健康保険制度は国単位で定められているものですから、マイナンバーのように国単位のIDとの相性も良いといえます。
感染症対策のような有事の際にも、感染症の広がり具合をリアルタイムで可視化することもマイナンバーによる健康情報の集約が進めば技術的には可能です。
定期的にそれなりの資金を投じて実施されている各疾患の疫学的な情報収集も、マイナンバーによって随時データが集められ統合されているのであれば、効率的に実施できるようになります。
地域単位での疫学情報を比較的簡便に速やかに得られるようになるのであれば、各疾患に対する打ち手も地域レベルで細かく検討することも可能になります。
東京で有効な打ち手と、北海道で有効な打ち手と、沖縄で有効な打ち手は、同じ疾患でも全く同じではなさそうですよね。
その地域(住んでいる人々や地理、気候など)に合わせて、より適した方法を選ぶための材料が増えることが期待されます。
研究開発における必要性
端的に言うならば、マイナンバーを研究に利用できるようになるならば、国全体の大規模コホート研究を実施しやすくなります。
今は別個に複数存在している「疾患レジストリー」が一つに統合されるということですね。
そんな夢物語のような世界は簡単には到来しないという声が大多数かもしれません。
必要とする情報は各疾患に応じてことなるので、繋げたところで意味はない、という指摘もあるでしょう。
とはいえ、繋げて意味があるかないかは、まだほとんどと言っていいほど事例が無いために分からないのが現状です。
繋げることによるリスクへの対策、具体的にはプライバシー保護であったり、間違った結論を導き出す懸念への対策を講じながら、「やってみないと分からない」ことへの挑戦を行う意義はあるでしょう。
予防や健康保持増進における必要性
予防や未病、健康増進やヘルスプロモーションという言葉は市民権を得ました。
フィットネスクラブにお金を払い定期的に運動する人は珍しくありませんし、健康的な食生活をサポートする民間サービスも山のようにあります。
一方で、ヘルスケアに関する情報は、病気になってから集中的に集められているのが今の状況です。
本来であれば、フィットネスクラブなどの有料会員サービスであれば、そこで行われた運動の履歴データを、本人の希望に応じて広く活用できるような仕組みがあるとよいでしょう。
健康的な食生活支援サービスも同様です。過去の自分の食生活をデータ化して管理できるだけでも、将来何らかの病気にかかったときの重要な資料になります。食事歴を可視化出来たらなお素晴らしいですね。
身体にまつわる情報は、病気になってから集めたのでは、ある意味で片手落ちです。
重症化する前に察知して早期介入することが重要というのは医療の基本ですが、そもそも病気になる手前で留めて、健康の保持増進のサイクルを回すという姿が理想的なのは言うまでもありません。
おわりに
プライバシー保護を恐れるあまりにデータが散らばってしまっている状態を是としているのは、巡りめぐって自分自身の損失に繋がります。
自分のために自分のデータを提供する、という風潮は徐々に広まって来ており、今後はフィードバックされた結果をいかに活用するかに軸足が移っていくでしょう。